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わがまま。 8

乗馬初心者と共に乗るのは少々恐ろしくも感じたが、案外ツツジは楽しそうにしていて 平坦な道では手綱を握らせてやり少しだけ乗馬についてを教えたりもした。 屋敷から少し山を降っていき、 森を抜けていくと目的の場所に辿り着く。 木々がその場所を開けるためにわざと避けているように、ぽっかりと開いた空間は 比較的平地に近いようななだらかな斜面となっており、 地面を覆い尽くすように青い花が咲き誇っていた。 「わ…ぁ…すごい!」 パースを木に繋ぎ、感動している彼を馬の上からおろしてやった。 絨毯のように見渡す限り広がる青色、 平地に近いとはいえ斜面ではあるためずっと奥の方は快晴の空と溶けあっているようにも見えた。 ツツジは杖を使ってフラフラと歩き、花畑へと近付いた。 「天国みたい…」 呆然と呟いている彼の背中にカゴを持って近寄る。 「この時期にだけ咲く花だ。あちらの方までずっと続いている 毎年少しずつ広がっているような気がするがな」 「すごいね…こんなの初めて見た」 「まあ街ではまず見れんだろうな」 ツツジの横顔は心底感動しているようだった。 こんなことが果たしてデートなのかはよく分からなかったが 一先ずその顔を見る限りでは良さそうだ。 「少し歩くか?」 「うん!」 とはいえ山であることには変わりない。 杖をついての歩行は少々難易度が高そうだったが、 ゼアレスは彼がいつ転けても良いように見守ってやりながら暫く一緒に歩いた。

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