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わがまま。 9
日が当たらないことを知ってか、花が避けている木の下に腰掛けて
ヘスティーが丹精込めて作ったらしい弁当を広げる。
運動会のような重箱に、カラフルなサンドイッチやウインナーやらフルーツやらが詰め込まれていた。
風が吹くたびに揺れる花畑を前に2人はゆったりと食事をした。
たまにはこんなのも悪くない、とそんな不思議な心地だった。
食事が終わるとまた少し散歩をして、
青い花畑の中2人で並んで座った。
「おじさんありがとう、素敵な場所教えてくれて」
ツツジは嬉しそうな顔を、ずっと遠くまで続く花畑に向けながら呟いた。
青い花の中、対照的な色をしている彼の赤い髪はよく映える。
そよそよと風に揺れて靡く髪は、本当に一輪の花のようだ。
「…俺のわがまま、聞いてくれて…」
その横顔は、今朝屋敷で見た時のようにどこか寂しそうにも感じられて
ゼアレスは彼の頭を抱えるように引き寄せて撫でてやった。
「お前が喜んだのならそれで良い」
「…おじさん」
「ここ以外にも、この山には美しい場所が沢山ある。
誰の目にも触れず、寧ろ人を寄せ付けない場所で
誰に見せるでもなく美しく存在している。
本来は人があまり立ち入ってはいけない領域だ。
だからこそ美しいと言えるのかもしれないが」
こんなにも広大だが、それは儚いものでもある。
絶妙な均衡とバランスで保たれている空間だ。
それは流動的で一瞬なのだから。
「だが、今こうしているように
時々そこに立ち入らせてもらえば、わかる。
言葉が通じなくても、感じるんだ。
彼らは彼らなりの役割と使命を持って、人とはあまり交わらない場所に在るだけであって
人を拒絶しているわけではないんだ」
揺れる花はまるで2人を寄り添うように取り囲んでいて
今この瞬間は共存が出来ているように思える。
永遠じゃなくても、一瞬でも。
まるで分かり合えているような、そんな気に。
「……おじさんは本当に、いろんなものに優しいんだね」
「優しいかどうかはわからない。敬意を持っているだけだ」
「それだよそれ。人は普通自分とは違うものを畏れて遠ざけようとするから
だからこの山を壊したいんだと思うよ」
確かにそうかもしれない。
人は時として弱く時として強大で、
物言わぬ存在を無慈悲に刈り取ってしまうことだってある。
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