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わがまま。 10
「おじさん、俺ね…おじさんを殺すように言われてきたんだ」
思いがけない言葉に、ゼアレスは思わず彼を見下ろした。
「大丈夫だよ、そんなことはしない。
おじさんを殺すだなんてそんなこと、したくない…から」
ツツジは静かに笑みを浮かべて、
ずっとずっと遠くを見ているようだった。
「俺さ、…俺、ずっと自分が人間であると信じてた
弱くてバカで利己的で、簡単に壊れてしまう
何度も同じことで失敗して何度も傷付けあって
だけど、同じ痛みを知っているからこそ許し合って
弱いからこそ支え合って、頭が足りないからこそ話し合って
一緒に何かして一緒に作り上げて、一緒に壊していく…
俺はずっとずっと羨ましかった
自分もいつかそうなれるって信じてた」
酷く自虐的に笑いながら、ツツジは肩を抱くゼアレスの手を取り
そっと自分の身体から離すように下ろした。
「でも…無理だった。俺はずっと1人だったのに
本当は1人でいなきゃいけなかったのに
誰かと関わろうとするから、誰かに分かられようとするから、
そんなんだから歪んでいってることに、
もう戻れなくなって、やっと今更気付いた…
俺は、人間では、いられない」
ツツジは目を伏せて、今まで見たどの表情よりも、美しい横顔を晒した。
しかし、その表情は辛く悲しく、胸を貫かれたように痛く感じた。
ゼアレスが何も言えずにいると、ツツジは静かに目を開きこちらを見上げ
いつも通りへらりと笑った。
その笑顔に、ゼアレスは辛くなってしまい思わず彼の肩を掴んだ。
「ツツジ、確かにお前は人とは違う能力を持っているかもしれない
それは、ただの人間である私には想像もつかない…
だが、人間かどうかの前に、お前は意志のある一つの存在だ…!」
「おじさん…」
「怪我をすれば痛い、殴られれば悲しい、
言葉を交わして喜んだり、それを誰かと分かち合いたいと思うのは当然だ、当たり前なんだ……」
ゼアレスは込み上げてくるものに涙を溢れさせながらその細い身体を抱き締めた。
遠く遠く、人とは違う領域にたった1人で立っている。
この花畑のように、山奥の静かな場所のように。
それでも人に見つけられることを、人ゆえに望んでしまう。
それがどれだけ辛く苦しいことであるか。
「そっか…やっぱりおじさんは気付いてたんだね…
それなのに優しくしてくれたんだ」
ツツジはそっと背中に手を回して、
泣きじゃくるゼアレスを宥めるように優しく撫でてくる。
やがて彼の手はゼアレスの頭を掴み、その赤い瞳と目線を合わせられる。
暖かい風が2人を取り囲んで、彼の赤い髪を揺らしていた。
「今まで騙していて、ごめんね。
優しくしてくれてありがとう
俺を人として…ううん、“俺”として扱ってくれて…嬉しかった」
彼の細い指がそっと頬に触れて、優しくキスをされた。
唇が震えている。
「ツツジ…」
唇が離れて彼の赤い瞳とまた目があった。
その瞳を前にするともう何も考えられなかった。
自分のせいで彼の心がどうにかなるだとか、“個性持ち”だからだとか
そんなことを全てすっ飛ばして
ただ、ただ、彼の存在で頭の中がいっぱいになってどうしたら良いかわからなくて。
「…お前のことが好きだ……」
「え…?」
「お前を守りたい、私にできることは少ないかもしれない
それでも、お前のためにしてやれることを探したい…」
ゼアレスは頭に浮かんだ言葉をろくに精査せずに吐露して
無我夢中でまた彼を抱き締めた。
「お前の、側にいたい…」
それは人ゆえの傲慢さなのかもしれない。
ツツジは何も言わず静かに抱き締め返して、
また優しく背を撫でてくれた。
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