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痛みの中で 4

あんなにも優しさに包まれていた身体が、 今はもう触れられる全てに傷付けられている。 口枷を噛み締める力もないほどツツジは酷く困憊し、 意識朦朧としながら暗い部屋の中で、やっと呼吸を繰り返す。 「本当に化け物だな…」 「火炙りの前に死んだら楽になれるぞ?」 もう何によって与えられている痛みなのかさえわからない。 人々の憎悪も畏怖も、分からないでもない。 だけれどやはりそれと直面すればするほど、 この矛先があの美しい景色や穏やかな暮らしに向いてはならないと思うのだ。 ましてや自分のために自分なんかのために、生きようとする者へなどには。 口枷を外されて、ツツジは顎を掴まれ無理やり上を向かされる。 鎖でめちゃくちゃに縛り上げられた身体が悲鳴を上げ、ツツジは小さく唸った。 「なぁカワイイ声で鳴いてみろよ殺人鬼ちゃん」 顔を近付けられ、ピシ、と何かが自分の中で壊れる音がした。 冷たい風が槍のように自分の横を通り抜け、その男の頬の横を通過した。 「…っ!?いてえ!!!」 叫び声を上げ、男は耳を押さえながら立ち上がる。 手を離されて頭は力なく地面に向いた。 床の上に男の耳が転がっていて、ツツジは小さく笑った。 「くそ、化け物め!」 「……ッ…!」 ツツジは腹に衝撃を感じ、襲ってくる鈍痛に咳き込んだ。 床に自分の血が口から溢れて飛び散ったが なおもツツジは笑みを浮かべた。 「こいつ笑ってやがるぞ…」 「いかれてる」 人々の阿鼻叫喚を聞きながらも、ツツジは息を吸う度にキリキリ痛む体を抑え付けるように 心を落ち着けるように努めていた。 大丈夫、大丈夫、何も怖くない。 後少しで楽になれる。 そう唱えながら。 髪の毛を掴まれて殴られても、細い針で足を貫かれても 鞭で叩かれようが棒で押さえ付けられようが ツツジは目を閉じず自分に言い聞かせ続けた。 どれぐらいそうしていたのか、 やがて床に一筋の光が差し込む。 「……時間だぞ」

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