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繋ぎ止める、 6
日が落ちる前には屋敷に辿り着き、
その静かに佇んでいる大きな建物を見るといくらか安心してしまった。
パースを馬小屋に連れて行くと他の馬達が嬉しそうに顔を寄せていた。
ツツジを彼の部屋のベッドに横たえると、昨日までの出来事も
今この瞬間ですら全て夢のようにすら感じる。
ゼアレスは彼の頭を撫で、額にキスをして部屋を出た。
飛び出してきてしまったが、残りの2人も心配だ。
庭に行くと、昨日蜂蜜が倒れていた所には誰もいなかった。
ゼアレスは庭から渡り廊下へと入り離れへと向かった。
レンガ作りの離れへの扉はいつも通り開きっぱなしになっていて、
入ると植木鉢や花瓶が所狭しと置いてある。
庭師が自由に使っているため、ほとんどの部屋が植物のための作業所や育苗部屋と化している。
廊下を抜けて奥へ行くと両開きの扉があり、そちらは閉ざされていた。
そっと扉を開くと、部屋は夕暮れ時のオレンジ色に染まっていた。
広い空間の半分は壁や屋根もガラス張りでできているサンルームとなっている。
普通の部屋の部分にも植物が溢れているが、生活感のある家具が置かれていて
銀色のボウルを持ったタキシード姿の男が丁度目の前を通りがかった。
「おやシュタインガルド様、お戻りでしたか」
「カザリ…すまない、屋敷を空けてしまった」
「事情はなんとなくお聞きしました」
カザリは困ったように微笑んだ。
「それでツツジ様は?」
「ああ、とりあえず連れ帰ってはきた…」
「それは何よりです」
彼についていくと、ベッドに寝かしつけられている庭師の姿があった。
大きな葉っぱが彼を覆うように覗き込んでいる。
「ローザ様がどなたかのために力をお使いになられるとは」
カザリはベッド脇に置かれたサイドテーブルの上にボウルを置き、
彼の額の上にあったタオルを取り替え始める。
普段は辛辣な庭師であったが、よく働いている彼が
こんな風に大人しく横たわっていると余計に痛々しく見えて
ゼアレスはつくづく不甲斐ない自分に腹が立った。
「守ると決めたのに…」
「良いのですよ。ローザ様がご自分でお決めになられた事ですから
それにわたくしを頼ってくださり嬉しかったのです。
これは個人的なアレですが」
カザリはにこにこと微笑み、本当にちょっと嬉しそうだった。
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