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繋ぎ止める、 7
「ローザ様は相手の心を相手が感じたままに受け取ってしまわれます。
ですからツツジ様の感情に充てられてしまったのでしょう。
“個性持ち”の方々は、とても繊細なのですよ。
きっと、理解できる部分があるからこそ余計に…」
人の身でありながら人ならざる力を持つ存在。
時には人を脅かす強大な力を持っていて、それゆえにこんなにも儚く繊細で
乖離する2つの要素をいつもその小さな身体に閉じ込めている。
「蜂蜜は…」
ゼアレスは泣き出したいのを必死に堪えもう1人の所在を問うた。
「ええ、重症なのは蜂蜜様ですね。
僭越ながらわたくしがよりよくお休み頂けるよう環境を整えさせて頂きましたが、
それ以上は神々の領域。我々は手出しはできませんから…」
カザリはジャングルのように草木が生い茂るサンルームを見つめた。
恐らくそこに蜂蜜はいるのだろう。
「そうか…色々と世話になった。」
「いえいえ。わたくしの役目でございますから」
カザリは優雅な仕草で頭を下げる。
ゼアレスは弱っている庭師をもう一度見下ろし、
結局この屋敷の誰も守れていないことに奥歯を噛み締めた。
庭師も、蜂蜜も、ツツジも。
皆自分の預かり知れぬ所へと落ちて行ってしまって、
心も身体も傷付けてしまって。
自分がただの人間じゃ無かったら?それとももっと器用に立ち回れたら?
そんなことばかりを考えてしまう。
「シュタインガルド様…?あまりご自身を責めてはなりませんよ?
神々から言わせればこの世には”善悪“などはなく、
人の道理は人の価値基準で分けられているに過ぎないのですから」
カザリが声をかけてきて、ゼアレスはつい弱音を吐いてしまいそうな自分を押さえつけながら小さく頷いた。
カザリと今後についてを少し話をして、
政治的な動き方の指針もとりあえずは決めることができた。
何食か分食事を作らせてもらえなかった炊事場の悪霊は少し怒っていて
浮気を問い詰められるように
誰が作った食事を摂ったのかしら?まさかカップ麺なんか食べていないでしょうね?、とネチネチと詰られた。
あまり食欲は無かったが腹いせのように山盛りにされた食事をどうにか詰め込み
風呂に浸かったりもしてみたが眠気は全く起こらなかった。
ツツジの元へ行くと、彼は相変わらず眠りについていて
その安らかな寝顔に幾らか安堵する。
しかし痛々しい姿には、変わってやれたらいいのにと思うばかりだった。
彼は今どんな夢を見ているのだろうか。
あまり怖い夢でないと良いが。
善悪を神は決めてはいない。
法律を、罪を決めるのは人間だ。
自分が自分を許せない時は、
一体どうしたらいいんだろう。
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