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それまでの全て 1

「はい。あーん」 キラキラとした笑顔で匙を差し出され、ローザは腕を組み そのタキシードの上にフリルのエプロンをつけた謎の変態コスチューム男を睨んだ。 「頼んでない」 「ええ、わたくしの好意でございます」 「要らん」 「まあそう言わず」 「自分で出来る」 ぐいぐいと匙を顔に近付けられ、絶対に口を開けてなるものかと顔を横に向ける。 緊急事態だったとはいえこの男を頼った自分がバカだったと後悔する。 心配しているような気持ちが入ってきて、 ベッドを覆うように大きな葉を伸ばしている植物に触れた。 「ありがとう…もう大丈夫…」 葉に顔を近付けながら呟く。 穏やかな気持ちに塗り替えられ、その葉を撫でてやった。 「いいなぁ〜わたくしも植物になりとうございます」 「キモい」 少し悔しそうに呟くカザリにローザはすぐに辛辣な言葉で叩き切った。 「しかしローザ様が床に伏せるなど本当に久方振りでございますね。 それだけお強くなられたということでしょう」 親のような目線でそう言われるとどこかむず痒くなってしまう。 無駄だと分かっていながらローザは彼をじっと見つめた。 “化爿”という人でも動植物でも神々でもない奇特な存在がゆえに 彼の心を読むことはできない。 あんなに疎ましい力だがこういう時にはもっと仕事をしてくれと思うのであった。 「他の“個性持ち”の心なんか触れたことなかったし。しょうがないだろ」 読みたくて読んだわけではなかったが、彼の近くにいなくても 時々屋敷の方から聞こえてきていた。 彼に近付くともっと深くまで聞こえてきて、 自分の記憶と感情と混ざり合って、ぐちゃぐちゃにされるような感覚になる。 だからあまり触れないようにしていたのだが。 思い出すとまた目眩がしそうだ。 ローザは腕を組んだまま立てていた膝を引き寄せて、縮こまるように背中を丸めた。 「僕は言葉を使う生き物は苦手だ。 感情が言葉と一緒に何重にも折り重なっていて、 複雑で重くて抱えきれない」

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