133 / 162

それまでの全て 2

植物や動物達のように、シンプルな気持ちだけを持って生きていられるのならどんなに楽なのだろう。 誤魔化したり嘘をついたりせずに、一瞬一瞬を精一杯感じ切って。 カザリは獣のような緑色の瞳を細めた。 「ローザ様が懸命に向き合っておられるからこそ、ですね。 だからこんなにも苦しんでいる。 要領が悪いというかなんというか… まあそういう所が構いたくなる要素でもあるのですが」 「おい喧嘩売ってんのか」 ローザが睨むとカザリは愉快そうにくすくすと笑った。 「ご自分が思っている以上に、 あなた様は心に寄り添おうと一生懸命に藻搔いておられる。 きっとあなたに触れてもらえる心達は幸せでしょうね。」 カザリは勝手に頭に触れて撫でてくる。 居心地の悪さを感じながらも、この何を考えているのか分からない男の気持ちを知ろうと 妙に躍起になっている自分もいた。 分からないからこそ分かりたい。 そんなようなことをゼアレスも想っていたから。 「もういい、食ってやるからさっさと寄越せ」 いつまでも頭を撫でてくる彼の手を払いのけて、 彼の膝の上にあった食器と匙を指差した。 「ふふ。では、はいどうぞ」 カザリは嬉しそうに匙をこちらに差し出してくる。 先端を口に含んで、腕の良い悪霊が作った食事を飲み込んだ。 何故こんな事をしたいのか本気で分からなかったが、 彼は自分の頬に片手を置いてニコニコと満足そうに笑った。 「カワイ〜」 「……本っ当に意味わかんねえ」 ローザはため息をつきながらも、仕方なくまた口を開けた。

ともだちにシェアしよう!