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それまでの全て 3
いつの間にか眠っていたらしく、ゼアレスはぼんやりと目を覚ます。
ここ数日、ツツジは眠りっぱなしで逆にゼアレスは睡眠不足であった。
なるべくつきっきりで彼の側にはいたのだが
椅子に座ったまま変な体勢で眠ってしまったせいか、身体が固まっていて動かすとギシギシと錆び付いたように動かし辛い。
傍のベッドの中にツツジがいないことに気付くとゼアレスは慌てて立ち上がった。
「ツツジ…!」
辺りを見回すと彼は暖炉の前に座り込んでいて、
ゼアレスは起きて動いている彼に心底ホッとしてしまった。
「あ、起きた?」
ツツジは振り返ってこちらを見上げてくる。
「…まだ、寝ていなくてはダメだろう」
「…俺は平気だよ」
「どこがだ」
彼はどこか居心地の悪そうに床の上に三角座りをしていた。
暖炉の火は小さく燃えていて、あんな事があったのに良くそんなに近くにいられるなと思うのだが
とりあえずゼアレスは彼を無理矢理抱え上げ、ベッドに押し付けた。
「ねえ…蜂蜜ちゃん、大丈夫だった…?
俺に触ったせいで…溶けちゃったかもしれない…」
ツツジは不安げな声を出した。
「カザリが対応してくれた…きっと大丈夫だ」
「…おじさんは?怪我してない…?パースは平気だった…?」
「ツツジ…」
こんな時でも彼は他人のことを気遣っている。
自分が一番ボロボロなのに。
「…人を心配している場合じゃないだろう
自分の状態をわかっているのか」
少し厳しく言ってしまうと、ツツジは口を歪める。
「おじさん…なんで俺のこと…助けに来たの…?」
「…迷惑だったか」
ツツジは暫く押し黙って、やがて小さく笑った。
「正直いうと…わかんない
でも、あの時、おじさんが来てくれて、助けてもらって…
嬉しいって思っちゃった…ヒーローみたいで格好良かった」
ベッドに腰掛け彼の頭を撫でると、ツツジは目を細めた。
「…へへ…でもね、おじさんが助けたのは可哀想なお姫様でもなんでもない…
俺の正体…すごいでしょ…?言ったらきっと
俺のこと気持ち悪くて抱いてくれないだろうって思ってさ
言わなかったんだ…本当に…、頭おかしいよね…死刑になって当然だよ…」
ツツジは震えながら、やがて頭を動かし向こう側を向いてしまった。
「自分のことばっか考えてさ……おじさんの気持ち、踏み躙ってるよ…
俺なんか助けたせいで、殺されるところだったんだよ…?
それなのに、…俺は……」
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