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それまでの全て 4

気持ちを踏み躙っている? 自分のことばかり? それは彼の方ではないか。 心も身体もいつも粉々にされて、 それでも最期まで誰かのことを考えている。 「…そうか?お前だって、死ぬ瞬間まで私を守ろうとしてくれていただろ」 やっと声を絞り出す。 彼が処刑所で言ってくれた事を思い出す。 「“俺が手出しをさせない”って、格好良かったぞ お前の方こそ、ヒーローみたいだった」 少し冗談っぽくいうが彼はこちらを見てはくれなかった。 「私は本当に頼りないよな。 お前の言うように私は弱くて浅ましい人間だ。 私がお前を必要だったのだ… だからお前を奪ってきてしまった…」 何も満足に守れず自信を失ったゼアレスは、自分のことをあまり信じられなかったが それでも今ここに彼が生きて存在していることが単純に喜ばしかった。 「お前にとっては押し付けられているだけかもしれない 迷惑なら言ってくれ ただ、私がお前を離したくないだけなのだ…ツツジ」 彼の頭を撫でながら、そっとその髪に口付けた。 「…なんで…?俺が化け物だって聞いたでしょ…? 怖いでしょ?嫌いに、なるでしょ…?人殺しなんだよ…」 「そうだな…許されることではないのかもしれない」 自分が彼のためにできることといえば、大したことはできない。 その傷を変わってやることも、彼の領域に入ってやることも自分にはできない。 もしかしたら寄り添うことも理解しようとすることすら彼にとっては迷惑なのかもしれない。だけど。 「だが、神々がお前を許さなくても、構わない。 私も一緒に背負う、背負いたいんだ…こんな私でも背負えるものなら 罪人を庇う罪?国を敵に回す? そんなことくらいいくらでも背負ってやる」 ようやくこちらを振り返ったツツジは驚いたような顔をしていた。 ゼアレスはその顔に力なく笑いかける。 「ただお前を繋ぎ止めたいだけだ。 お前を独り占めして、心を縛り付けていたいだけなのかもしれない。 身勝手な私と違って、お前はずっと背負って来たんだ。 充分すぎるほど向きっている。だからもう少し自分に寄り添って 自分のことだけを考えていたって構わない、 私に出来ることであれば、お前の望むようにしてやりたい。」

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