136 / 162
それまでの全て 5
「何言ってんの…?」
「ツツジ、私はお前に生きていて欲しいと思ってる…
だが、もしお前が…私に邪魔をされたと思っているのなら
私が背負うから言って欲しい…」
「……おじさん」
彼が望むのならば、この世界に辟易してしまっているのなら。
繋ぎ止める権利など誰にもない。
生きて償えなど恐ろしいことは言えない。
ゼアレスは遂に涙を流してしまいながらも、その赤い瞳を見下ろした。
戸惑ったように泳いでいるその瞳には自分はどう映っているのだろう。
何にも知らないくせに、と詰られてやしないだろうか。
「……俺を…殺してくれるってこと…?」
ゼアレスは彼の真っ直ぐな目に怯える情けない自分を晒しながら
その頬に手を伸ばした。
ずっと触れていたい、綺麗で愛おしいこの存在に。
「なんで、なんで?
俺なんかに、なんで…」
ツツジの瞳から涙が溢れ出して、何度泣かせれば気が済むのだろうとさえ思う。
涙を掬うように彼の頬を撫でてやり、ゼアレスは泣きながら小さく笑った。
「お前のことを、愛している」
もう何も手立てはない。
誰かを愛したのは初めてだった。
こんなにも辛くて痛くて、それでも
こんなにも暖かく穏やかな気持ち。
ただ彼に笑って欲しい。
もっと軽く、してやれたなら。
ツツジは勢い良く起き上がった。
その怒っているような顔付きにゼアレスは何もできなかった。
腕が首に伸びてきて、ゼアレスは何も抵抗せず彼にベッドの上に押し倒された。
「そうだよ、俺はおじさんを守りたかった
領主が邪魔だと思ってる奴らからでもこの山が欲しい奴らからでもない
“俺”から守りたかったんだ…」
馬乗りになられ首に両手をかけられるが、ゼアレスはただ黙ってその泣きじゃくる姿を見上げていた。
「拒絶されたら、嫌われたら、殺してしまうかもしれない
そんなのは許されない、“俺”が許せない
だから遠ざけたんだ、結局俺は自分のためにこうやっておじさんを傷付けることになる、何もしなくても、生きてるだけで
みんなを傷付けてしまう…全部の行動が裏目に出てさ…!
いない方がマシだって自分が一番分かってる…、
わかってる……
楽になりたい…って…思ってる…」
その痛々しい姿は、泣いている顔も相まってますます辛く見えた。
「けど……だめだ、背負わせられない…こんなの……」
彼の手に段々と力がこもっていく。
その辛そうな顔に、ゼアレスは小さくため息を零し
首を掴んでいた手を掴み返した。
その細い腕が勝てるわけもなく、簡単に手は引き剥がされ
ゼアレスは身体を起こすと同時に片手で彼の首根を掴み形勢は逆転する。
「お前に殺されるなら別に本望だがな。
全部1人で片付けられることなんか限られている
他人を傷つけずに、傷付けられずには生きられない」
片手で簡単にベッドに押し付けられるツツジに苦笑する
こんなにも、今にも壊れそうなのに。
「人を傷付けるよりもまず自分が傷付いている事に気付け!
お前が一番傷付けている相手はお前自身じゃないのか?」
ツツジは泣きじゃくりながらこちらを見上げてくる。
ともだちにシェアしよう!