147 / 162

化け物同士 1

ようやく状況を把握すると、自分が飛び出したせいで蜂蜜や庭師にも迷惑をかけたらしかった。 いつも蜂蜜が駆け回り、庭師が作業をしている庭も今は誰もいなくて どこか寂しく感じる。 心なしか植物達も元気がないように思えた。 ツツジは庭の芝生の上に座り込んで、噴水の水の音を聞きながら 風に揺れる植物達をぼうっと見ていた。 とはいえ、自分はこれからどうしていけば良いんだろう。 いくつもの他者の命を奪ってしまった罪はどう償っていけばいいのか。 色々と意識を他の場所へ飛ばしてしまっていると、 誰かの足音が聞こえて顔をそちらに向けた。 いつも通りのボイラースーツ姿の青年が、両手いっぱいに様々な道具を持ってこちらへやってきた。 彼は噴水の前に道具を下ろし、バケツと剪定鋏を手にしている。 「あ…あの…!」 ツツジは何かを言わなくてはと口を開くが、どう言葉にしていいかわからず その無表情な顔を向けられると余計に頭がショートしてしまって ぱくぱくと鯉のように口を動かした。 庭師は眉根を寄せて首を傾ける。 「あのあの、ご、ごめんなさい…!」 ツツジは思わずそれだけを叫び、頭を下げた。 「……別に、僕はただ、自分に出来ることをやっただけ… って僕が何したかわかってないな…? なにがごめんなさいなんだよ」 「うう、ごめんなさい…」 ぶっきらぼうに言い、庭師は花壇の前にしゃがみ込んで作業を始めた。 彼が現れて少しだけ植物達が嬉しがっているようにも見えた。 「…腹が立たないのか。そんな風にされて」 「え…ああ、うん…まあ…そうかな…当然なのかなっていう…」 「はぁ…へんなやつだな…」 ツツジは何故か恥ずかしくなって笑いながらも首を斜めに捻った。 庭師は眉根を寄せている。 「僕は人が嫌い。 自分勝手で、自分のことは棚に上げていつも誰かのせいにして 1人じゃ何にもできねえくせに群れて寄ってたかって。 ちょっとやり返されれば被害者ヅラ。 殺されて当然だろとすら思うんだが」 とんでもない発言をする男にツツジは思わずぽかんと口を開けてしまう。 「だからって別に直接人を殺したことはない。 …けどこの力のせいで、たくさん死んでる事には間違いない。 別に勝手に死ねばいいと思ってはいるけど、 でも、誰かが死ぬ度に自己嫌悪はする、 こんな力なければいいって、 自分が消えた方が早いんじゃないかって… いつも思ってるし今だって思ってる けど、何か意味があるとも信じてる。 そう思ったままじゃ腹が立つからな」 花を咲き終わらせた茎を刈り取りながら、庭師は表情も変えずに呟いた。 「えっと…励ましてくれてる?」 「そんなキモいことしない。ただ、わかるってだけ」 わかる、その言葉にツツジは不思議に思いながらも彼の横顔を見つめた。 「…なんだ誰も話してないのか? はぁ、じゃあ言わなきゃ良かった…」 「え…?」 「…だから、僕も一緒だってこと。君と同じ、“化け物”」

ともだちにシェアしよう!