155 / 162

化け物同士 9

庭師は喋り終わると、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。 蜂蜜はそっと目を閉じ、再び目を開けるときょろきょろと辺りを見回して不思議そうに首を傾けた。 呼吸をするのも忘れていた。 ツツジは呆然と暫くどきどきと高鳴る心臓を服の上から押さえ、怖々とゼアレスを見た。 ゼアレスもまた同じように呆然と立っている。 「神の”言葉“をおろしてしまった……」 庭師は入り口で蹲り震えている。 蜂蜜は心配そうに彼を覗き込んでいてその姿はいつも通りの蜂蜜に見えた。 「蜂蜜ちゃんって…何者…?」 ツツジは苦笑した。 変わった子だとは思っていたが、今の言葉はまるで神のようで。 「……精霊だ」 「ええ…!?せ、精霊…!?」 変な話を沢山聞かせてしまったことを思い出しツツジは思わず両手で顔を覆った。 ゼアレスは震えている庭師に近寄り彼に触れている。 「気を失っているな…無理もない、か ツツジ、大丈夫か?」 ツツジは庭師を抱え上げているゼアレスを見上げ、こくこくと頷いた。 大丈夫かどうかよりも何が起きたかすらあまり理解していなかったのだ。 「すぐ戻ってくる」 ゼアレスはそう言い残して庭師を連れて去って行ってしまった。 蜂蜜と取り残されたツツジは、色々と考えた結果 とりあえず床に降り立って彼と目線を合わせるように床にしゃがみ込んだ。 「蜂蜜ちゃん…あの、えっと俺知らなくて、今まで色々失礼なことしちゃったかも でもそれより、俺のせいでごめんなさい…俺に触ったせいで…」 彼の存在の強大さもそうなのだが、 以前よりももっと小さく幼くなってしまった彼の姿はどういう理屈かは不明だが 紛れもなく自分のせいだ、と。 「本当にごめんなさい…!」 ツツジは頭を下げて蜂蜜に謝罪をした。 蜂蜜は同じようにしゃがんで、ツツジを見上げては首を横に振った。 そして両手で自分の頬を包むようにして頬を上に引っ張っている。 笑え、というようなジェスチャーにツツジはなんともいえない胸がジワジワと熱を持つような感覚を覚え 泣きそうになりながら、笑った。 蜂蜜はそれを見ていつものようににこにこして頷いた。 ゼアレスも、ローザも、蜂蜜も みんなみんな自分に優しくしてくれる。 ツツジは分かっていたはずなのに、その事が実感としてジワジワとした胸の熱さを押し広げていって 今しがた笑うように言われていたのに、耐えきれなくなって思わず両手で顔を覆った。 「…っ、ごめ…」 謝りながらもツツジは涙を溢れさせてしまって、 ずっとずっとここにいたいと強く思ってしまった。 穏やかな風が部屋の中でまた自由に泳ぎ始める。

ともだちにシェアしよう!