159 / 162

契約 4

昼食の時間になると、ゼアレスにお姫様抱っこのような形で運ばれて 馬小屋の更に奥の庭へと連れて行かれた。 ほとんど森のように木々が生い茂り、 その奥には煉瓦でできた壁のようなものがあった。 壁には蔓性の植物が伝い、白くて小さな花をたくさん咲かせていた。 人が1人通れるぐらいの扉のない出入り口のような穴があいていて、 その向こう側にも庭が広がっているようだ。 「本当に広いねこの庭…」 ツツジは感心しながらゼアレスに運ばれるまま 壁の中へと入ると、同じように木々が生い茂った庭が続いていたが そこには四角形の美しい池があった。 レンガで縁取られている池はあまり大きくはなかったが、 コポコポと水が沸き出しているようで 丸い葉っぱの水草のようなものも浮いていた。 池の近くには鳥籠のようなガゼボがあり、そこにも蔓性の植物が巻き付いて屋根を作っているようだった。 ガゼボの中央にはガーデンテーブルも置かれている。 ゼアレスはツツジをガゼボ内に運んでくれた。 テーブルの上には、ティーポットや皿が3段重なったケーキスタンドなどが設置され 見たこともないような色とりどりの綺麗なお菓子が並んでいる。 「え…?なにこれ」 椅子に座らせられると、ツツジは目を見開いた。 まるで夢のような光景である。 「ヘスティーに頼んだんだが… 張り切りすぎたようで、すごいことになってしまった お陰で運ぶのが大変だった」 ゼアレスは肩を竦めて苦笑している。 スタンドは一段ずつクッキーやケーキなどが行儀良く並んでいて 一番下にはサンドイッチなどもあった。 ティーポットもカップも綺麗な飾りが施されていて、 添えられたフォークやスプーンもピカピカの金色だった。 「……ツツジ?」 ツツジが感動してなにも言えなくなっていると、傍に立っていたゼアレスが心配そうに顔を覗き込んでくる。 「甘いもの、好きじゃなかったか?」 彼の言葉にツツジは必死に首を横に振った。 ドーナツ一個で貴族ごっこをしていたツツジにとって、 突然のアフタヌーンティーセットはキャパオーバーである。 喜びが超越して思考停止であった。 ツツジは彼を見上げてつい変な顔をしてしまった。 「おじさんモテるだろう」 「は?急になんの話だ」 「サプライズでこんな素敵なヌン茶なんてそんなの乙女にはたまりませんて!」 「は???」 ゼアレスは本気で意味がわからないというような顔をしていた。

ともだちにシェアしよう!