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掻き回さないでと懇願した。 *
静かな呼吸音だけが奥座敷の中を支配していた。天嘉の体を抱き込んだまま、蘇芳は離れようとしない。汗臭いに決まっているのに、なんだかそれが気になって、時折身を捩る。
キツく腕に力を入れられ、うなじに歯を立てられれば、気が立っていることがありありとわかった。
「蘇芳、…ごめ、…ッ、離して…」
「お前は、俺の気をおかしくさせたいのか。」
後ろからマウントを取るように、蘇芳の歯が天嘉の白い頸を掠める。腹と、肩にまわされた腕に力が入っていて、身じろぐこともできなかった。
なんでだよ、そりゃあ悪いって思ってるけど、俺だって大変だったのに。
天嘉は、身に感じた恐ろしいほどの痛みを耐え抜いて消耗した自分に優しくして欲しかった。これが都合のいい甘えだということはわかっている。それでも、蘇芳が自分の伴侶だというのなら、今は優しく抱きしめて、いい子だ、頑張った、そう安心するように微笑みかけながら頭を撫でて欲しかった。
ああ、思い通りにいかない。癇癪持ちの子供に戻ってしまったかのように、天嘉は思うようにならないこの関係が嫌で嫌で仕方なかった。
「いやだ。いやだ、何が嫁だ…こんな時に、怒ってるやつの嫁になんかなりたくない。蘇芳、なんか怖いし…力強いし…もう、放っておいてくれ。」
「ふざけるなよ…」
「っ、あ…!?」
底冷えのするような蘇芳の怒気を孕んだ声が、天嘉の背筋を氷つかせる。身の内から這い上がってくるような恐怖感とともに、思い切り肩に噛みつかれた。
「いぃ、っ…あ、あ…っ!」
ガブリと噛まれ、その身を後ろから覆い被さるようにして押し倒される。いとも容易く頽れた天嘉の頸を押さえつけるようにして蘇芳が跨ると、そっと耳元に唇を寄せて言う。
「お前は、これだけ俺を振り回し、青藍や十六夜、屋敷のものにも迷惑をかけて、本当にわがままが過ぎる。俺の嫁がいやという話だったか。しかしそれはもう諦めてくれという他はない。お前は身重だということも理解せず、あれがいやだこれがいやだ。仏の顔もなんとやらだ。いいか天嘉、自分がどういう存在だか身をもって躾直してやる。何、怯える事なんてないさ。俺がお前に雌としての自覚を持たせるだけなのだから。」
「ひ、…っ…」
蘇芳は心底腹が立っていた。あれだけ一人になるなと言ったのも、今日のようなことが起きる可能性を危惧したからなのだ。
確かに同意なしで、中ば無理矢理契っては既成事実を植え付けた。それも、蘇芳が自分の元に落ちてきた天嘉を逃さないために。しかし、だからこそ蘇芳は己を好いてもらおうと歩み寄ったつもりだった。それなのに、あれはない。俺がいる目の前での青藍とのやりとり。自分のたった一人と決めた雌が手を伸ばしたのは、俺ではなかった。それはつまり、この思いが伝わっていないということだ。
腹の子のためにも己の妖力を受けてもらわなくてはならない。ならば、天嘉が誰のもので、どういう存在なのかをもう一度教え込まねば、蘇芳の腹は収まりがつかなかったのだ。
細い首筋だ。簡単にたおってしまえることだろう。それをしないのは、蘇芳が天嘉のことを好いているからだ。
震える天嘉の上半身を伏せさせる。手から伝わる微かな震えが、自分のせいだということが許せない。
蘇芳はその眼に怒りを宿したまま、下肢を隠す着物の裾をぺろりと捲った。小さな尻を隠す珍妙な下履きを一気に脱がせると、さすがに慌てたらしい、隠すようにして伸びてきた手を、乾いた音を立てて振り払った。
「すお、…う…っ」
「躾の最中だ。お前は黙って震えていなさい。」
俺と同じ思いを返せないのなら、その身にこの呪いのような愛を教え込んでやる。振り払われるとは思わなかたらしい、天嘉は傷ついたような顔で蘇芳を見た。
今更そんな顔をするのか。天嘉の柔らかな尻肉を揉み込みながら、ムカっ腹が立ってがじりと噛み付く。ひ、と可愛らしい囀りを漏らした天嘉が、ゆるゆると己の口を覆い隠した。
深い呼吸をしながら、必死で落ち着こうとしている天嘉の姿を見ながら、蘇芳は親指で引き伸ばした蕾の淵をべろりと舐め上げる。慎ましい窄まりは、まるで歓迎するかのように舌に甘えて絡みつく。
「んぃ、っあ、あ、あ、や、やだあっ…」
「黙れ」
「ひ、な、なめぁ、いで…っ…や、やー…!」
内股をブルブルふるわしながら、泣きそうな声の中に微かな甘い吐息を漏らす。天嘉の性器は縮こまったままだが、蘇芳が腰を高く上げさせたまま、袋までべろりと舐め上げてやると、ひゃんと鳴いて尻を跳ねさせた。
手に吸い付くような尻の柔肉が、蘇芳の気に入りだった。もちりとしたそこは、男の体だというのに随分と雌臭い。時折蕾の中に舌を差し込み刺激してやりながら、手持ち無沙汰に袋で遊ぶ。細い足が、感度を得るたびにじっとりと汗ばんでいく。
ちゅ、ちゅく、とはしたない水音を立ててやれば、天嘉の性器はそりあがり、そして先走りをこぼす。パタパタと微かな音を立てながら、天嘉の足の間の水滴が微かに色を帯びた。
「ひ、…っんく、ぁ…あ、やだ…やぇへ…」
だらしなく開いた唇の端から、たらたらと甘露のような唾液をこぼす。蘇芳はにゅく、と蕾から舌を引き抜くと、先ほどからほったらかしにされていた天嘉の小振りな性器をきゅうと握りしめた。
「ひぅ、っ…!」
「どうした、催したのかと思ったぞ、天嘉。」
「あ、あ、…す、すおう…も、許して…っ…」
「ああ、俺としたことが。まだこちらへの刺激が足りなかったか。」
「あ、ああや、やら…ぁ、っ…ちんこ、っ…も、やァ…」
発情している。天嘉の身からは蘇芳を誘う雌の香りがした。にゅぷ、と差し込まれた指先に、天嘉の身が強ばる。尻に差し込まれた太い蘇芳の指を食むようにして締め付ける自身の体に、その整った顔を頸まで赤く染め上げる。
まるで先走りを満遍なく塗り込むようにして蘇芳の手が上下した。くつくつ笑いながら、楽しそうに慎ましい天嘉の穴をいじめるその指が、持て余した体を気持ちよくしてくれることを、よく覚えていた。
「おやおや、」
パタタ、と滴り落ちる音がした。天嘉の体は、蘇芳によってもたらされる甘やかな快楽を期待するかのように、まるで犬のように喜んだ。
「ひん…っ…、」
ジョロ、と恥ずかしい水音とともに、天嘉の足の間の布地に水たまりを作っていく。艶かしい太ももに、幾筋もの水流を伝わせながら、天嘉は自分の意思とは裏腹に粗相をした。
腰が震える、信じられない位気持ちがいい。天嘉の下半身はバカになってしまったように、止めたくても止められはしなかった。
ヒクつく蕾は、背徳感のある行為も相まって、ちゅうちゅうとその指を締め付ける。
天嘉の尻は、自身の預かり知らぬうちに三本もの指を飲み込んでしまっていた。
「ふ、まるで赤子のようだなあ。お前は本当にいとけない、ああ泣くな、粗相がなんだというのだ。お前が気持ちが良かったのなら、俺はそれで十分さ。」
「ひ…っ、お、俺…も、にじゅういちなのに…、っ」
「何をいう、お前が俺の腕の中に落ちてきた時も股座は濡れていた。お前は本当によく漏らす。」
「う、そ…っ!や、あ、あてんな…やだ、入れないで…」
「ここまで許しておいて、そんなつれないことを言わないでくれ。」
「あ、あ、っは、入っちゃ…だめ、だめだめだめ、ぇ…っ!」
後ろから覆い被さるように、蘇芳の大きな手のひらは天嘉の薄い腹に添えられる。尻肉を破り開くようにして侵入を果たした蘇芳の熱い性器は、まるでここまでいれるぞと宣言するかのように押さえつけられた天嘉の腹の内側を堂々と犯し尽くす。
満たされてしまう。この味を知ったら、天嘉はもう後には戻れない。だから犯さないで欲しかったのに。
小さく握りしめられた天嘉の拳は小刻みに震える。蘇芳はそっと割り開くかのようにしてその拳を己の手で開くと、まるで慈しむかのように強ばり震える指を絡める。
天嘉は恥ずかしかった。まるで心の内を見透かされてしまったかのような蘇芳のその無言の優しさが、酷くその身を矮小な存在へと貶める。
いやだ。俺はあんなにお前を突き放したというのに、今更そんな風に優しくなんてしないでくれ。
自分が本当に幼く、小さな人間だったらどれだけ良かったか。そうしたらこの無様な姿も自分で許すことができただろう。
泣いた。腹の中にその禊を受け入れたまま、天嘉は自身の曖昧な気持ちに揺れ動かされてしまった。
こんなやつ、好きじゃない。好きじゃないに決まっているのに、どうしてこんなに振り回されるのだろう。絡めた手の平が熱い。この気持ちの置き場所をずっと探しているのに見つからない。ただ一つだけ頭の足りない天嘉がわかっているのは、この大きな手のひらに縋ってしまいたい気持ちを誤魔化している、不器用な自分がいるということだった。
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