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第3話

一回目に魔物が破裂した時も、陰でコソコソ言われていた。 二回目となってしまってからは、あからさまに疑惑や嫌悪の目を向けられた。 ”また、あいつ殺したのかよ!?” ”二回目連続って…偶然じゃあり得ないよな。あいつ、何かしてるんじゃねえの?” ”酷い…なんで、あ、あんな、惨いこと出来るの…!? 信じられない…!” ”こ、怖…!あんなことする人間が、こ、こんな近くに居たなんて…” ”一緒に授業受けるとか、視界に入るのも無理なんだけど…。学校の方で退学にでもすればいいのに…” ”むしろ自主退学してほしいよ、お願いだからさぁ…” 二回目の事件の後、僕が引き起こした出来事はそのショッキングな内容から、同学年以外にも広まっていった。 僕を不気味に思い、関わりたくないとよそよそしくする生徒達。 遠巻きに向けられる、異常者や犯罪者を見るような、目。 (なんでっ…?なんで、あんな目で見られないといけないんだッ…?!) 自分は何もしてないのに…なぜ自分だけ… なんでこんなことに…っ? あれはどうしようもないことじゃなかったのか!? (それなのに僕ばっかり、なんで――ッ?!!) 元々僕は、人と話したり関わりを持つことに苦手意識があった。 クラスメイトなど周囲と友好な関係を作れていなかったことも、拍車をかけたのだと思う。 そうして僕は、クラスはおろか学校中から孤立してしまった。 「………、」 (でも…他の人からしてみれば、狂気的な人物が野放しで自分と同じ空間にいる状況なんだろうな…) 校内での冷遇に理不尽さを感じずにはいられなかったが、僕は努めて冷静に振舞おうと思った。 幸いなことに、みんな僕を心底不気味がっていたので、暴力を振るったり嫌がらせをしてくる人も居なかった。 周りの態度に合わせ自分からも距離を置いた。そうしてなるべく周りに不安や不快感を与えないよう、迷惑をかけないように心がけた。 それに本当はそれらよりも、ずっと不安に思っていることがあった。 ――周りが言うように、  自分が無意識に何かしていたのではないか…? もし、そうだったら……? やっぱり、自分のせいで、魔物達が破裂したのだとしたら…? 「っ、」 ぃや、だ、…いやだ、そんなの…だって、それじゃ………… 「…っ、…、……」 僕が、彼らを死なせた? いや違う、 ……………殺した? (…ッ、う”っ、ぅああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーー!!!) ごめん、ごめんなさい。 殺してしまってごめんなさい。 ほんとにごめんなさい、きて、来てくれたのに。 あんなっ…、あんなひどいことをしてしまってごめんなさい。 ごめんなさい…。 ごめんなさいッ………!!! パリンッ!! 揺らぎ漏れ出た魔力によって、安眠剤を飲んだ時に使ったコップが砕けていた。 「……」 ――ッガシャン! バリンッ!! 扉の外側で響いた陶器の割れた音。息をのむような短い悲鳴。静かに咎める声。 「だってなんで!?なんで兄ちゃん ばっかり!!ずるいよ…」 それに続いたのは、糾弾するようでいて悲しみが詰まった痛ましい叫びだった。 自分を責め立てるような音を遮るため、ドアに背を向けベッドの陰で毛布をかぶる。 そうして、毛布と共に抱えてきた魔界図鑑を開いた。 魔素や魔力で構成された、こちらとは違う世界。 日々揺れ動き、形を変える大地。 時に地に潜り、時に空を翔ける魔力の河。 そのほとりに広がる湿原には、白緑色の巨木群が水中からそびえ立つ。 さらには異なる空間へとつながる「歪み穴」なるものも存在するらしい。 もしうっかり踏み込んでしまったら… 灼熱の海、魔素だけが広がる不毛の砂漠、浮雲の中の湖…どこへ飛ばされるか分からない。 そして、そんな想像もつかないような所で暮らす多種多様な魔物達。 過酷な環境に耐える生体機能を持つ種。 魔力や環境の変化に合わせ自身を絶えず変化させる種。 魔力の流れを読むことに長け、暮らしやすい場所を転々とする種。 強い魔力をもって生活範囲を暮らしやすいように変化させてしまう種… 中には魔力の影響を受けて空間が歪みやすいことを利用し、亜空間を生み出し暮らすものもいるという。 (僕も亜空間?を創れたらなぁ…いや「歪み穴」で飛ぶのもいいか。) 灼熱の海に飛ばされるのは嫌だけど、砂漠は静かそうだ。魔界の砂漠も暑いんだろうか? こっちの砂漠には意外と生き物が居たりするけど、魔界には全然いないのかな? ここではない所、未知の世界や存在へひたすら思いを馳せること。 それが子どもだった僕が見つけた、その時自分にできることであり、支えだった。 「…っ、…ハァッハァ…ッ、ハァッ、ハァッー……」 (っ、落ち着け、) 精神のゆらぎは、魔力の状態に影響を及ぼす。 だから僕たち魔術学校の生徒は精神を安定させたり、精神と魔力の状態を切り離す訓練を受けている。 内側を落ち着かせるため、深呼吸をくり返す。 「…ハー……ハァ……」 (なぜかは分からないけど、僕が召喚した魔物は死んでしまうのかもしれない…) 自分にとって魔物や魔界は、子どもの頃から憧れていた世界だった。 その存在自体を心の支えにしてきた。 でももう、その憧れも手放すしかないのだろう。

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