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第18話
…ッザリ
「っ、全く仕方のない奴だ」
木の葉のさざめきのように、耳に沁み入る低音。
巨大樹の如く堂々とした物言い。
耳に届いた彼の声になんとか顔を持ち上げると、温室に足を踏み入れた白緑色が見えた。
花の魔物は不意に現れた侵入者を見て動きを止め、様子を伺っている。
「危険だから隠していた隔離空間に、わざわざ忍び込んでいたとは。」
しかし白緑の魔物はそれを気にも留めず、ズンズンとこちらへ近づいてきた。
が、あと数歩というところで、花の魔物が腕や蔓を広げてその行く手を遮った。
”ミて!くださイ!ワたし、大きくナっ、ナりましタ!!”
意外なことに、花の魔物は迎撃のためではない行動をとった。
うれしそうに、まるで親に褒めてもらいたそうに、ただ身体を掲げてみせている。
「そうか」
だが白緑の魔物はそれに一瞥もくれることなく、すれ違いざまに一言機械的に返しただけだった。
そしてその返答後、花の魔物が急速に萎れ始めた。
僕に絡まる蔓達も、あっという間に力を無くし干からびていく。
”?……あ、あレ?ワたし…ッ…”
身に起こる異変に狼狽える花。その可愛らしい相貌にも皺と恐怖がはびこっていく。
魔物はそれすら顧みることなく僕の側に膝をつくと、僕の身体に絡まる蔓を淡々と取り除き、抱き起こそうとした。
”ま、まっテ!ソ、ソれワたしの…!……”
獲物を奪われまいと伸ばされた蔓。
しかしそれが届く前に花は枯れ果て、動かなくなった。
(ぁ、ミントの匂い…)
上半身を起こされた口元に、覚えのある香りがする小瓶が添えられた。
解毒剤を飲ませ終わると、魔物は僕を抱き上げ無言で歩き始めた。
自然と目に入ってきた白い顔は、いつになく険しかった。
(そ、そうだ…僕、すごく汚いんだった……)
土と粘液と体液が混ざりあいドロドロに汚れた身体。
それをしっかりと抱く白い手も、灰色のローブも茶色く穢れている。
「っ、ご、ごめんなさい…
ぼ、僕汚いし、た、たぶん、歩けるので下ろし」
「うるさい」
「え、で」
「黙れ、下ろさない」
魔物にぴしゃりと言われ、僕はそれ以上何も言えなくなった。
すると項垂れるしかない僕の頭上で、ため息が一つこぼされた。
「……洗えば汚れも落ちる。あと無理な事は言うな」
「、すみま」
「お前の謝罪など、聞きたくない…」
僕の発言を遮るように被せられた言葉。
でもそれは決して、突き放した物言いではなかった。
僕はそのまま浴室に連れていかれ、魔物に黙々と洗われた。
彼は怒っているのか機嫌が悪いようだったが、身体を洗う手は優しかった。
(僕に、怒ってるわけじゃない……?)
ただ穴の中まで当然のように洗おうとする魔物に、断ろうとしたら睨まれたけども。
魔物は自分の汚れた服などは、魔術で素早く取り替えていた。
僕のことは手ずから(有無を言わせず)全身丁寧に清めたくせに、と思う。
浴室から出た後は擦り傷などに手当を施され、寝間着を着せられた。
そしてまた抱き上げられ、あてがわれた部屋まで運ばれたのだった。
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