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02:期待はしてなかった

 さっきのお姉さんはというと、そそくさとカーテンを閉めてもう行ってしまったらしい。呆気ない。 「あ、……はい」  心なしか、俺の声もトーンダウン。 ……そうだよな、期待した自分が馬鹿だった。  ここは俺の同僚が来るくらいの一般的で普通のマッサージ屋だし、そりゃあ男も居るに決まってるか。  むしろ女の人しか居ないほうが珍しいよな。  そういうところって俺みたいな男は来にくいし、場違いな感じがする。  ちょっとだけ落胆しながら、濃い茶色の大きなタオルケットが敷かれた、よくあるシンプルで機能性重視なベッドにうつ伏せになって寝転ぶ。    ちょうど顔の部分には呼吸が楽なように穴があいていて、その上のドーナツ型の枕に顔を乗せた。   「怪我とかで、どこか触ってはいけないところはありますか?」 「……いえ、大丈夫です」  頭上から声がかかる。  少し掠れた、落ち着いた優しい声だ。    目を瞑っているからか、周りの音がやけに大きく鮮明に聞こえる気がする。   「……では、今から60分コースで、始めさせていただきます」 「ふぁい」  あー……だめだ。  枕に顔を押しつけてるから、もの凄く喋りづらい。    男の手が肩に触れた時、俺はリラックスするために身体の力を抜いた。   「どこか重点的にして欲しいところとかありますか?」 「……肩と、腰ですかね」  最初は慣らすためか、飲みすぎて気分が悪くなった時にするみたいに、少し強めの力で背中を擦られる。    初めてマッサージ店なんて来たけど、ベッドは固すぎず柔らかすぎずで弾力があり、性的な意味じゃなく人に触られるのは、それだけで案外心地がいい。   「わかりました。それでは、楽にしててくださいね」  相変わらず癒しボイスを発する兄ちゃんがそう言った瞬間、本格的にマッサージが始まったのか、肩に圧力がかかった。   「──……っっ!」 ……やっばい、今、声出そうだった。  声が出そうになるくらい、気持ちいい。 「力加減は大丈夫ですか?」 「……ん、ちょうど、いいですっ」  肩を揉まれながら、早くも舌が拙くなってきてる俺。  指圧される場所全部が、ツボだ。  少し痛いけど、それ以上に気持ちよすぎて声にならない。  “イタ気持ちいい”ってこういうことか……。    マッサージの気持ち良さを実感していると、しばらくしてから肩を揉みほぐす手が首に向かう。    もう凄テクすぎて何をどうやってるか分からないが、両手を使って首の側面をぐりぐりと指先で揉まれるような。 ……そこももちろん、すっげぇ気持ちいい。 「ッはあ……っ」  ほんと……、やばい。    うっかり喘ぎそうになって、ぐっと耐える。  なんとか吐息だけを吐き出すけど、無理に声を我慢したせいか、吐いた息は熱く震えた。

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