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06:緊張と興奮と

 もうバレるのが怖くて、下手に動けなくて、見ていられなくなった俺は、ぎゅっと目を瞑って顔を背けた。 「杉村さんって、股関節がすごく軟らかいですね」 「……そう、ですかね」  膝を曲げた状態で片方ずつ左右に開かれながら目を見張るように言われた。 ……そりゃあどうも。  つかそれって褒め言葉?  股関節褒められても、別に嬉しくはないんだが。   「すみません、両手を上にあげてもらえます?」 「はい」 ……いや、ていうか、それよりも。  もしかして、意外とバレてないのか、これ。    だって現に、俺は兄ちゃんに向かって、解剖前のカエルみたいにすべてをさらけ出して開脚している体勢だ。  しかもタオルケットなしで。 ……恐るおそる目を開く。  最初のころと何ら変わりない、無表情でもどこか笑っているように見える無害そうな様子の兄ちゃんに、正直、心から安堵した。    気持ち的に楽になった俺は、言われた通りに両手を頭上に投げ出す。    それを兄ちゃんは、にっこりと笑みを浮かべながら──片手で、俺の両手首を、ベッドに押さえつけた……? 「……へ?」 「凝ってるところは全て揉み解したつもりだったんですが……。まだ、残っていましたね」  何を、言ってるんだ、この人。  言葉の意味を理解する前に、するりと撫でられた。 ……何をって? ナニをだよ! 「っう、え……?」 「ガチガチじゃないですか、ここ」  気持ち悪いっていう拒絶とか、驚きとか、そんなものを全部すっ飛ばして、俺はただただ茫然とする。   ……気づかれて、いたのか?    一体、いつから。  勃ち上がったそれを作業着の上からなぞられ、思いっきり身を捩るけど、手首を掴まれた手の力が凄まじくて、ほとんど意味がない。  俺だって肉体労働者なのに、全然、歯が立たない。  “安心安全“、“人畜無害”だったイメージが、覆される。 「っえ、ぁ……っなに、してんすか……!」 「それはこちらの台詞ですよ」  顔が、ぐっと近くなる。  今までうつ伏せだったから、ちゃんと相手なんて見ていなかった。が、やつは思った以上に整った、端正な顔立ちをしていて。    清潔感のある柔かそうな暗髪に、一見優しそうな雰囲気の少し垂れた目と、右目の下にある、小さなふたつの泣きぼくろ。  その目は今は、愉しげに細められていて。  形のいい薄い唇は、綺麗な弧を描いている。    その柔和で朗らかな笑みが場違いすぎて、逆にめちゃくちゃ怖い。     「ちょ、あんた、頭おかしいって……っ」 「……それ、こんなところでモノを勃たせている貴方が言います?」  くすくす笑われて、一気に顔が火照る。    目を逸らすと、撫でていただけだった手が、少し強めの力でカタチをなぞるように動きだした。    服の上からの、なんとも生易しい刺激に、ずっと触ってほしかったせいか、無意識に腰が揺れる。   ……うぁぁ、いや、だ……こんなこと、したいわけじゃないのに。 ……足り、ない。  そんな、布越しじゃなくて。 ──直接、触って、ほしい。 「……っはぁ、あぁ……ッ」  初対面の男にこんなこと思うなんて、どうかしてる。  頭がおかしいのは、俺のほうだ。

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