7 / 36

07:なりふり構ってられない

 なのにもう、取り返しがつかないくらいに勃ってしまったら、悲しい男のサガと言うべきか、本能には抗えなくなる。    ちゃんと、触って。  イきたい、イきたい、そればっかり。   「……いやらしい顔」  ぼそりと言われて、恥ずかしい。  優しかっただけの声は吐息を含むように掠れて、熱っぽく低くなっている。    もしかして俺に、少しは欲情してる?  普段なら、鳥肌が立つほど気持ち悪いのに。  そう思うのは本当なのに、身体はじわりと熱を帯びる。    えろい顔してるって、自分でも分かる。  さっきまで、マッサージと言えど身体を触られていたからか、警戒心はほとんどなくなっているらしい。   「っく、そ……」  言い訳みたいな、悪態をつく。    張りつめた自身が、下着や固い生地の服を押し上げて痛い。    やつはそこをやんわりと撫でたり、カタチを確かめるようになぞるだけで、正直もどかしくて。    だからって、自分から触ってほしいなんて言うのも癪だった。  プライドが許さないっていうか……。     「こんなに硬くなって……。痛くないんですか?」 「痛ぇに、決まってんだろ……っ」  気付けばいつの間にかタメ口。    敬語を使う余裕がないくらい、俺は自身への刺激が欲しくて仕方なくなっていた。    カリカリと指先で亀頭を擦られて、期待で熱い吐息が漏れる。  なんで少し触られただけで、こんなにも感じてしまうんだろう。   「言って下さい、杉村さん。僕は貴方の望むことだけをします」 「っん、ぅあ……んっ!」  ぐりぐりと爪先で先端を弄くられて、思わず喘ぎが飛び出す。    急いで声を押し殺すと、やつは温かな少しざらついた指先で、噛み締めた唇を辿る。     「唇、傷付いちゃいますから、噛まないでくださいね」 「っや、も……だってぇ、」  唇で感じた指は、少しザラザラしていて表面が硬い。  マッサージ師だからこその指先だ。  仕事をしている人の手。    細く長い指、だけど感触は俺と変わらない男の手のはずなのに、それにもなんだか、きゅう、と下腹部が熱くなって、もうどうしていいのか分からない。   「喘いで下さって構わないですよ。……さっきも、可愛い声で鳴いていらしたじゃないですか」 「っひぅ、ぅん……ッ」  さっきって、あれとは状況が全く違うじゃねぇか。    頑なに唇を噛んで、弱くくすぶるような刺激に耐えていると、兄ちゃんはふいに、俺のモノを強く扱きだす。 「あッ、あ、アっ、や、ぅあ……ぁあっ!」  しかも、服の上から。  完全に焦らされてる。 ……生殺しだ。 「……も、もう……やめ、ろ」 「やめていいんですか?」  俺はこの時、異常なシチュエーションと、雰囲気に飲まれていただけだ。    こいつが煽るから、えろい空気を醸し出すから、だから、こんなのは、俺が望んだことじゃない。   ──そう、胸の内で言い訳して。  俺は、与えられる微弱な快感に、素直に流されてしまった。   「ちがっ、そうじゃなくて──……ちゃんと、さわっ、て……っ!」 「……畏まりました」  綺麗に微笑む兄ちゃんの目の色が、急に変わった気がした。    ジジジ、と作業服のジッパーがゆっくりと下ろされていく。  小さな音と振動は、俺の興奮をさらに高める。    仰向けに寝転んだ顔の横に片手をつかれて、あいた手で徐々に作業服の前が開いていく。  やつの視線は当たり前に俺へと向いていて、獲物を狙うようなギラついたそれが、なんだか非常に恥ずかしい。    だって、今まで男に、こんなえろい目で見つめられたことなんか、ない。    

ともだちにシェアしよう!