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07:なりふり構ってられない
なのにもう、取り返しがつかないくらいに勃ってしまったら、悲しい男のサガと言うべきか、本能には抗えなくなる。
ちゃんと、触って。
イきたい、イきたい、そればっかり。
「……いやらしい顔」
ぼそりと言われて、恥ずかしい。
優しかっただけの声は吐息を含むように掠れて、熱っぽく低くなっている。
もしかして俺に、少しは欲情してる?
普段なら、鳥肌が立つほど気持ち悪いのに。
そう思うのは本当なのに、身体はじわりと熱を帯びる。
えろい顔してるって、自分でも分かる。
さっきまで、マッサージと言えど身体を触られていたからか、警戒心はほとんどなくなっているらしい。
「っく、そ……」
言い訳みたいな、悪態をつく。
張りつめた自身が、下着や固い生地の服を押し上げて痛い。
やつはそこをやんわりと撫でたり、カタチを確かめるようになぞるだけで、正直もどかしくて。
だからって、自分から触ってほしいなんて言うのも癪だった。
プライドが許さないっていうか……。
「こんなに硬くなって……。痛くないんですか?」
「痛ぇに、決まってんだろ……っ」
気付けばいつの間にかタメ口。
敬語を使う余裕がないくらい、俺は自身への刺激が欲しくて仕方なくなっていた。
カリカリと指先で亀頭を擦られて、期待で熱い吐息が漏れる。
なんで少し触られただけで、こんなにも感じてしまうんだろう。
「言って下さい、杉村さん。僕は貴方の望むことだけをします」
「っん、ぅあ……んっ!」
ぐりぐりと爪先で先端を弄くられて、思わず喘ぎが飛び出す。
急いで声を押し殺すと、やつは温かな少しざらついた指先で、噛み締めた唇を辿る。
「唇、傷付いちゃいますから、噛まないでくださいね」
「っや、も……だってぇ、」
唇で感じた指は、少しザラザラしていて表面が硬い。
マッサージ師だからこその指先だ。
仕事をしている人の手。
細く長い指、だけど感触は俺と変わらない男の手のはずなのに、それにもなんだか、きゅう、と下腹部が熱くなって、もうどうしていいのか分からない。
「喘いで下さって構わないですよ。……さっきも、可愛い声で鳴いていらしたじゃないですか」
「っひぅ、ぅん……ッ」
さっきって、あれとは状況が全く違うじゃねぇか。
頑なに唇を噛んで、弱くくすぶるような刺激に耐えていると、兄ちゃんはふいに、俺のモノを強く扱きだす。
「あッ、あ、アっ、や、ぅあ……ぁあっ!」
しかも、服の上から。
完全に焦らされてる。
……生殺しだ。
「……も、もう……やめ、ろ」
「やめていいんですか?」
俺はこの時、異常なシチュエーションと、雰囲気に飲まれていただけだ。
こいつが煽るから、えろい空気を醸し出すから、だから、こんなのは、俺が望んだことじゃない。
──そう、胸の内で言い訳して。
俺は、与えられる微弱な快感に、素直に流されてしまった。
「ちがっ、そうじゃなくて──……ちゃんと、さわっ、て……っ!」
「……畏まりました」
綺麗に微笑む兄ちゃんの目の色が、急に変わった気がした。
ジジジ、と作業服のジッパーがゆっくりと下ろされていく。
小さな音と振動は、俺の興奮をさらに高める。
仰向けに寝転んだ顔の横に片手をつかれて、あいた手で徐々に作業服の前が開いていく。
やつの視線は当たり前に俺へと向いていて、獲物を狙うようなギラついたそれが、なんだか非常に恥ずかしい。
だって、今まで男に、こんなえろい目で見つめられたことなんか、ない。
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