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【四ノ宮葵と九重柚葉の場合】

 職場の同僚のひとりが『最近、肩こりと腰痛が激しい』と言うので、行きつけのマッサージ店を紹介してやったのが、約ニヶ月前だった。    それからというもの、よほどお気に召したのか、ちょこちょこ仕事終わりにそのマッサージ店へ通っているらしい。    毎回、甲斐甲斐しく職場のシャワーを浴び、インナーと下着まで着替える。  どこか浮き足立つような、今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいの上機嫌。  顔を見なくてもウキウキしているのが分かる。背中がもう物語っている。     「……たっちゃんさあ、今日アレの日だろ?」 「えっ、あ、アレ……?!」  職場のむさ苦しい更衣室で。  フンフンとついに鼻歌を歌いだした背中に、ニヤニヤしながら問いかける。  ついでに両手でワキワキと、見えない肩を揉むジェスチャーをした。 「マッサージ。行くんだろ?」 「あ……あぁ。ココは? そういえば最近行ってないんじゃないか?」 「だな。でも明日休みだろ? 久しぶりに予約とたんだよ。俺も、今夜」 「じゃあ帰りにメシでも行くか」 「おう。決まりだな」  そう言って、俺も少しは身だしなみに気をつけようとシャワーだけは浴びておいた。  毎週のようにマッサージ店に通い始めてから、なんとなく、たっちゃんは顔色が明るくなったというか、毎日ハードワークだというのに元気で調子がよさそうだ。    一方の俺はと言えば、最近は帰って晩酌してとっとと眠りたくて、風呂もシャワーでさっさと済ませているせいか、そろそろ身体は限界のゴチゴチ。    やっぱりしばらく行ってねえと凝り固まってくるなあ、と、背筋を伸ばしたら背骨がバキバキいって、首を傾けるとボキボキ音がした。        きっかけは、仕事場の近くでどこかいいマッサージ店はないかとしたネット検索だった。    レビューが全部サクラかと思うほど、店長や他の施術者、そして受付の事務方までもが褒めちぎられていたので、逆に興味がわいた。  店内の写真を見ると、白とブラウンで統一されたそこは、清潔感と高級感があって女性向けな気がしたが、施術者は男女どちらもいて、男性の入店も歓迎と載っていた。    一応、予約時の電話で受付の女性に確認するとにこやかに受け入れられ、指名なしだと施術するのは基本的に同性だと伝えられた。  少しガッカリしたような、安心したような気持ちになりつつ、とりあえず“おまかせ”で初来店したのはまだ記憶に新しい。   「へえ、お前んとこはいつも店長なんだな」 「ココは違うのか?」 「俺はいつも四ノ宮っていう若いやつがやってくれる。新卒みたいな顔してるくせに、腕はいいんだよな……」 「ははっ、分かる。みんな若いよな。同年代か下っぽく見えるのに、腕はガチでいい」  たぶん相性とかもあるんじゃねえかなあ、と朗らかに笑うたっちゃん。  ……こいつ、ほんと最近笑顔が多くなったっていうか、そもそもこんなに笑うやつだっけ?  なんつーか、穏やかになった?  もしかして、恋人……とか、できたのか?      聞くタイミングを見計らっているうちに、とあるマンションの一室についた。

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