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03:丸聞こえだよ

 濃いブラウンの大きなタオルをかけられ、その上からしっかりとした力強さで背中から全身を撫でていく。  マッサージする前の儀式というか、準備運動みたいだと、いつも思う。 「……もう、バッキバキで。正直、身体ぜんぶ痛いくらいっつーか……」 「凝ってるというより、痛む感じです?」 「んー……、痛むときもある、かな」 「……なるほど、わかりました。強いとか弱いとかありましたら、遠慮なく仰ってくださいね」 「はぁい」  ぐっ、と肩甲骨の間を指圧され『はあぁっ』と押し出されるように息が漏れた。    あぁ……。人見知りしてても、時間があいても、やっぱりこいつの腕は確かだ。  押すところ、触るところ全部が、気持ちいい。    やつの指圧に合わせて呼吸する。  押されるときは息を吐いて、手をゆるめた瞬間に、新鮮な空気を吸う。    ふと『たぶん相性とかもあるんじゃねえかなあ』と、たっちゃんが言っていた台詞を思い出す。   ……相性か。たしかにありそう。  俺は喋るの苦手だけど、四ノ宮も言葉数はそれほど多くない。  だから基本はふたりとも、無言で。  自分の呼吸音と、四ノ宮が動くたびに、衣擦れの音だけが聞こえる。 ──そんな時だった、 「ふふ、後ろ、刈り上げてるんです。触ってみますか?」 「……いいのか?」 「はい、どうぞ。今しか味わえない感触ですよ」  隣から和気あいあいと声がして、ピクリと肩が跳ねた。  ちょっと忘れてたけど、あいつら、めちゃめちゃカジュアルに会話するじゃん……。    俺はこういう店では必要最低限しかコミュニケーションをとらないから、クスクス笑う声が楽しげで、ちょっと羨ましい。   ──なんて。まあ俺には親しい友人以外に砕けた態度でってもともと苦手だし、自分には無縁だわ……と、思っていた。ら、 「──……ココ、」 「?!」  背後からの突然の低い声に、ビクゥッ!と、もはや全身で驚く。   「……って、呼ばれてるんですね。九重さん」 「……は……あ、え……っ?」 「可愛いですね、その呼び名」 「えっ、あ……っ、え……っ、な……ッ?」  うううぇッ?  なっ、なにごと?!    突拍子もなさすぎて思考が追いつかず、ドーナツ型の枕から顔をあげるかあげないか、迷う。    こういうとき、どんな受け答えが正しいのか、冗談の切り返しかたも分からない俺へ、さらに追い打ちをかけるように、   「──……っア、あぁ……ッん……」 「ッ?!!」 ……えっ?今度はなに……?!  悩ましい声にギクリと肩がこわばる。    さっきまでのアットホームな空気はどこ行った?!   「……ッんぁ、はあぁ……ッん、んぅ……ッ」  ィイヤァァアアア゙……!!!!  あっ、あっ、あえぎごえ!  これっ、喘ぎ声!!    待て待て待て待て。落ち着け……。 「──……は、はあ、んぅ……っひぁんッ」 ……お、お、落ち着けるかあ!!!  店内は、俺と四ノ宮、たっちゃんと店長の、四人しかいないように見えた。  施術するベッドだって、他の場所は全部カーテンがあいていて誰もいなかった。    っていうことは、この声……、たっちゃん?  いやいやほんとにマジで何をしてんだよ……?!

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