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04:極楽
「……身体、力を抜いてください」
「ッんぁ……っ!」
また急に耳の近くで話されて、思わず両手で口許を覆った。
ただびっくりしただけなのに、変な声が飛び出した自分に、驚く。
隣からアンアン聞こえてる最中に、こんな反応……。
絶対、気持ち悪い客だって思われた。
サイテーだ。最悪の事態だ。死にたい。消えたい。もう帰りたい。やっぱり来なければよかった。
ひとりより、ふたりのほうが行きやすいかなって、思っただけなのに……っ!
「……九重さん、力むと後がつらくなるので、できればリラックスしてくださいね」
はあ?!無理だろ!
俺から隣の声が丸聞こえってことは、こいつにも同じく聞こえているはずで。
なのになんでそんな冷静なんだ?!
よくあることなのか?!
…………よくある、こと、なのか……?
「いつもみたいに……、ね? 呼吸を合わせて……俺の声だけ、聞いてほしいです」
「はっ……あぁ……っ、んぐぅ」
ちょっと身動いで、声が出ないように枕に口許を押さえつけた。
ドーナツ型のおかげで、鼻は出ているから息はしやすい。
我ながら名案だと思った。
「そう……、上手ですね」
「……んぅ゙ッ、」
「続けます……。つぎは腰のあたり、触りますので」
「……っ、」
こく、と、たどたどしく頷く。
すんっと鼻で息を吸って、目を瞑る。
四ノ宮は、見かけはまだ成長途中のように線が細く、手足がひょろりと細長い。
肌は透き通るように青白いし、男にしては長めのショートヘアはいつもウエットにサラサラだ。
スッとした高い鼻で、少しキツい印象の切れ長な目は、笑うと存外、可愛らしい。
そんな儚げでどこか冷たそうな雰囲気をまとっているくせに、実際に触れられ、マッサージされると、そのイメージがひっくり返される。
「……っ、ふ、うぅ……ッ」
「いい具合に解れてきましたね。ガチガチだったこのあたり、ほら、ちゃんと指が沈んでいくようになりましたよ」
ぐぐ、と体重をかけた両手の親指が腰に沈む。
でも、全く痛くない。
痛くないのに、力強くて、安定感があって、声はずっと優しくて。
太ももに触れている四ノ宮の足があたたかい。
指圧するところは、合図するように先に手のひらでさすってくる。
その手がいつも、熱いくらいで。
触れたところから体温が移り、増長する。さらに柔らかく、ほどけていく。
ギシ、とベッドが軋むたび、まるで揺りかごにでも包まれているような気分になって。
「……っふ、ふぅ……っん」
……きもち、いい。ずっと、こうしていたい。
今もう何分たった?
30分は絶対たってるよな……。
終わるの、やだなあ。
やっと身体から力が抜けて、与えられる極上の心地よさを堪能する。
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