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05:羞恥心の限界

 凝り固まっているところをピンポイントに解され、最初は痛みがあっても、そのうち気持ちよさしか感じなくなる。  どこが痛いとか、凝ってるとか、触るだけで、きっとぜんぶ筒抜けなんだろう。    言葉を交わさなくても、身体の状態を把握されている。  少し恥ずかしいような。でも、言わなくても伝わるそれが有りがたくて、信頼できて、嬉しい。   「……っん……ふ、」  自分の呼吸する音と、四ノ宮が体重を移動させるとたまに軋むベッド。  顔を伏せた枕から、タオル越しに柔軟剤のような清潔感のある香りがする。   「──横か、仰向けになれますか?」 「ん……っ、」  もうそろそろ終わってしまう。  後半はいつも、うつ伏せから体勢を変えて、ストレッチなど身体の色んな場所を伸ばしてから終了する。    もうそんな時間なんだな……。  名残惜しい気持ちになりながら、枕から顔をあげ、四つん這いで体勢を変えようとした、瞬間だった。 「──……ッア、ぁあっ、そこ、そこォっ、きもちぃ……ンぁあ!」 「っ!」  隣から、再びたっちゃんが喘ぐ声。  はやく、仰向けにならないといけないのに。  あたたかなリラックスした空間をぶった切る、官能的ないやらしい嬌声。    突如として異次元に引きずり戻されたみたいで、身体が固まった。   「今日はシャワー、浴びてきたんですか……?」 「へっ……?」 ……なんで、今、そんなこと言うんだ。  近くで聞こえる四ノ宮の声。  ていうか、それわざわざ言ったってことは、今までの俺、汗くさかったってことか。    仰向けになったら、四ノ宮と向かい合うかたちになってしまう。  なぜか今そうするのは憚られて、ベッドの上でやつに背を向けたまま、ぺたりと座り込む。    とろとろにほぐされた身体は、力が入らない。   「あ……、な、んで……っ」 「髪、シャンプーの香りがします。ここも、石鹸の匂い……」  ベッドが揺れる。  背後からの、気配がぐっと近くなる。  耳の後ろあたりに四ノ宮の顔があるのが分かる。    そろそろ加齢臭とか気にしないといけないナイーブな年齢に差しかかっているというのに、デリカシーのないやつだなっ! ……なんて、言えたらどんなに楽なことか。  こんな若い男に体臭を指摘されることが恥ずかしくて、カアッと頭が、顔が熱くなった。     「──ッあぁ、すごぃ、それぇ……っんぁあッ」  さっきからたっちゃんの声がえろい。  マジで何したらそんな声が出るんだよ。    カーテンで区切られた声の方向に目を向ける。  案の定、そこにはベージュの布が天井のレールから伸びてあるだけ。  音声しか聞こえないほうが、良くない想像をしてしまいそう。 「……っ、」  今いる空間を拒絶するように、両手で耳を塞いだ。    隣から絶え間なく聞こえる、悩ましげな裏返った高い声。  背後からの、答えようがない四ノ宮の言葉を無視する。  沸々とわきあがる羞恥が、限界だった。

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