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16:期待はしてない

 そこからはもう、お互いペコペコ土下座する勢いの、謝罪合戦で。    料金はいらない、うちの従業員がとんでもないことをして大変申し訳ないと今にも地面に頭をすりおろしそうな店長へ、俺が望んだことだから、合意だから、かかった時間分はきっちり支払うから、とアワアワしながら答えるが、こちらの意見は通らず。    ちなみに当事者のひとりである四ノ宮はというと、後片付けやベッドメイクをしていたようで、同じ色の大量のタオルが入った黒いアイアン調の大きなカゴを持ったまま、しばらくしてからやって来た。    いまいち状況が飲み込めていないのか、きょとんとした無垢な笑顔で。 「あの……、九重さん、連絡先教えてください」  コラァ!もう!この子は!と、店長がお母さんみたいに四ノ宮の肩をペシッとはたくと、やつにも同じく謝罪するよう促す。    目の前の芸人みたいなやり取りに毒気を抜かれ、思わず『ぶはっ!』と吹き出し、腹をかかえて笑ってしまった。 「「またのご利用をお待ちしています」」  背中に明るい声を受けながら、店をあとにする。  明るかったのは四ノ宮の声だけだったが。    なんとか店長を宥めすかし、平和的にその場をやりすごした俺は、マンションのエントランスにいたたっちゃんと落ちあった。   『よう』とか『おう』とか、そんな一言だけ掛け合って、まだ車通りの多い街頭の下、肩を並べて歩いていく。 「──ココはさあ、」 「……言うな。もう何も言うな」 「まだ何も言ってないけど」 「……」 「……何食べたい? て、聞こうと思っただけだが?」 「……絶対うそだろ」 「あはは、うん。うそ」  元はと言えば、たっちゃんからのもらい事故なのに……。やつは呑気にヘラヘラしている。    ふたりともゆったりとした歩調だが、歩いてから気づく。 ……ケツの違和感が、ものすごい。  そりゃあ経験ないのに指三本も飲み込んだら、多少なりとも弊害はあるわな……。    ほんとに、今思い出してもあれはただの夢か妄想だったような気さえしてくる。  だが、手や指や唇の感触、焦れるような声が、紛れもなく身体のそこら中にこびりついていて、まだ離れそうにない。 「──でも、安心したよ。俺、マッサージでやたら声が出るタイプみたいでさ。まさかココも“そう”だったなんてな」 「は……っ? お前っ、あれは完全にチンポ挿れられてる声だろ……っ?!」 「こ、今回は挿れられてないから!」 「今回は??!!!」 「ちっ、ちがっ……く、はない、けど……。とにかくっ、今日は普通にマッサージしに行っただけだ」 「え……まじか……?」  まじかあ……。そうかあ。  てっきり本番までガンガンしてるのかと思ってたわ……。  ていうか、たっちゃん普通のマッサージであんなにアンアン喘ぎまくるのか?普段から? 『死んじゃう』つってたぞ。どんなマッサージだよ。

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