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第14話※
それから陣は、毎日颯太郎のアパートに来てはルーズリーフをポストに投函していった。内容は相変わらず、自分を心配しているから連絡をくれというものだ。
しかしそれで颯太郎はある事を思う。正臣と陣が鉢合わせしてしまったらどうしようという懸念だ。彼らの事だ、陣は正臣が颯太郎の義兄だと知れば、学校に来ていない理由を詳しく聞きたがるだろうし、正臣も陣が颯太郎の友達だと知れば、陣に危害を加えようとするかもしれない。
そんな事を思っていたある夜、いつものように来た正臣は、玄関近くのキッチンにいた颯太郎をその場に突き倒す。肩を打ち付け呻いた隙にいきなりズボンと下着を脱がされ、四つん這いの体勢にされた。颯太郎はハッとして顔を上げると、玄関の鍵が閉められていないことに気付く。
「ちょ……っ、鍵くらい閉めろっ、……ああっ」
どうやら正臣は颯太郎の言葉を聞くつもりはないようだ、そのまま後ろを貫かれ、声を上げて顔を床に突っ伏した。正臣は機嫌が悪い時、こうやって無言で颯太郎を蹂躙するのだ。
「……っ、う……っ」
颯太郎は小さく呻く。正臣が動き出し、次第に強く、深く打ち付けてくるようになると、その頃には後ろは馴染み、颯太郎はグッと息を詰めて終わるのを耐えるだけだ。
幸いにも、今日は凶器が入っている場所しか興味が無いらしい。颯太郎は床におでこをつけて、意識を別の場所に移す。できるだけ反応しないように、正臣が早く飽きるようにと呼吸をゆっくり、深くする。
その時、インターホンが鳴った。
颯太郎の肩が震えた。ドアを一枚隔てた向こうに、誰かがいると思ったら、バレないように思わず息を潜める。別の所に向けていた意識が戻ってきてしまい、こんな時でも腰を振り続ける正臣の律動に、颯太郎は口を自分で塞いで耐えた。
するとまたインターホンが鳴る。電気は点いているのに出ないのを咎めるかのように、その音は颯太郎の耳に響いた。
「颯太郎? いるんだろ?」
颯太郎は息を飲む。陣の声だ。まさか心配していたことが起こるなんてと、颯太郎は必死で声を抑える。
「体調悪いのか? 大学にも連絡入ってないって言うから心配で……」
颯太郎は首を振る。早くそこから立ち去ってくれ、と心の中で強く願った。しかも鍵が開いているのだ、もし入って来られたらと思うと、恐怖で身体が震える。
「い……っ!」
しかしこともあろうに正臣は、颯太郎の分身を掴み、かなりの力で握りしめた。振り返って正臣を睨むと、更にそこに力を込められる。
「うう……っ!」
思わず上げてしまった声は、陣に聞こえてしまったようだ。イヤイヤと髪を振り乱して正臣の手を掴んで離そうとするけれど、突き上げられて力が入らない。正臣が、わざとこの場面を見せようとしているのは明らかだった。小声で、助けを呼んだらどうだ? と笑う声がする。颯太郎は無我夢中で首を横に振った。
ドアの向こうでこちらを訝しむ声がする。
「颯太郎? いるんだろ? 大丈夫か、なぁ?」
コンコン、とノックされ、颯太郎は小声で止めろ、と正臣に言った。正臣の身体に手を伸ばしたけれど届かず、ならばと足を動かして正臣を抜こうとしたら、強く腰を引かれて派手に転んでしまった。
「大丈夫かっ?」
陣はドアノブを掴んだらしい、確かめるようにドアを少し開け、鍵が開いている事を知ると、勢いよく中に入ってきた。
「…………あ……」
颯太郎は玄関で足を止めた陣を見る。その間も何故か正臣は止まらない。四つん這いで後ろから正臣に犯されている場面を見られてサッと視線を逸らすと、見るな、と呟いた。
「見るなーっ!!」
颯太郎は力の限り叫ぶ。その叫びを聞いた陣は、見ていなくても分かるほどの怒りの赤と攻撃性の黒を纏い、正臣に殴りかかった。
「お前……っ!!」
颯太郎から離れろ! と正臣を突き倒し、馬乗りになった陣は、正臣の胸ぐらを掴む。その拍子に正臣が抜け、颯太郎は脱がされた下着を掴んで履くと、陣を見る。
「……っ」
陣は真っ黒な感情に覆われていた。あの時、商店街で見かけた、通り魔と同じような色だ。
「お前! 颯太郎に何してたんだ!?」
そう言って陣は正臣の頭を床に叩きつける。正臣は、お前こそ颯太郎のお友達だろ、と言い返した。お友達を強調した正臣を陣はマウントポジションを取って、一方的に彼を殴り始めた。
「……陣……」
颯太郎は震える声で陣を呼ぶ。しかし彼には届いていないようだ。颯太郎は黒色に覆われて姿が見えなくなっていく陣を見て、颯太郎はこのままじゃダメだ、と陣にしがみついた。
「陣! 陣、ダメ、止めろっ!」
必死に押さえる颯太郎だが、それ以上に陣は暴れ、振り払われてしまう。それでも陣の背後から羽交い締めにして、止めさせる。このままでは、あの通り魔と同じようになってしまうと感じた颯太郎は、陣に全力でしがみついた。
「何だ!? 何でお前が止めるんだよ!?」
暴れる陣に振りほどかれそうになりながらも、颯太郎は訴えた。
「お前の! 今の色、真っ黒だっ。痛いだろっ?」
陣が痛いから止めて欲しい、と涙ながらに言うと、彼はフーッ、フーッと肩で息をしながら正臣の上から退く。陣は警察に通報だ、と言って颯太郎に促した。けれど颯太郎はスマホをコイツに奪われてる、と言うと、何かイライラしたように髪を掻き乱す。そして自分で通報すると、抵抗しない正臣をリビング兼寝室へ乱暴に連れて行った。
「……っ、陣っ、もう乱暴は……」
「しないよ。けど颯太郎、お前も全部話せ」
まだ怒りの赤を纏わせている陣は、正臣に続いて部屋に入る。颯太郎は彼の顔を見れず、小さくうん、と言うだけだ。
その後警察が来て正臣を連行し、颯太郎は病院で検査をしたあと事情聴取に付き合わされた。颯太郎は警察に、茅場の家にいた時からの事を話し、軟禁状態だった事も話すと、そのタイミングで前科があった事が分かったらしく、相応の判決が下るだろうと言われる。正臣に没収されていたアパートの鍵とスマホとパソコンも取り戻し、陣と帰路についた。
そして陣と、颯太郎の家に帰ってきた頃には深夜になっていた。
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