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第30話

夜が更けた頃、颯太郎はベッドの上で横になり、壁の方を向いてムスッとしていた。 「颯太郎、なぁ、颯太郎ー、いい加減機嫌直せってー」 あれから二人は約束通り風呂に入り、颯太郎は恥ずかしがりながらも陣の頭を洗った。陣は終始ご機嫌で鼻歌まで歌っていて、そこまでは良かったのだが。 颯太郎は陣にあちこち、それはそれは丁寧に洗われ、もう無理と言うまでイカされた。しかも風呂を出てからも陣に、俺はまだ満足していないとベッドの上で散々可愛がられ、とりあえず休憩するか、と陣が言ったのがついさっきだ。 とりあえずって何だまだやる気か、と颯太郎はもう無理だと言ってそっぽを向いたのだが。 「そーたろー?」 陣が擦り寄ってきた。何でそんなに元気なんだ、と颯太郎は陣を睨む。 「や、さすがにもう出ないかもだけど、颯太郎のイク顔がホント可愛いんだよね」 ニッコリ笑ってそんな事を言う彼は、鴇色から少し青みがかったピンク色を行ったり来たりしている。どうやらからかっている訳じゃなく、本気で言っているようだからタチが悪い。 「俺だってもう出ない」 「出なくてもイッてたじゃん?」 「……っ、あれ本当にしんどいんだぞっ!」 ごめんごめん、と陣は颯太郎のおでこに口付ける。どうやら陣は新たな扉を開いてしまったようだ、と颯太郎は泣きそうになった。 「でも、気持ちいいんでしょ?」 微笑んで言われて、颯太郎は恥ずかしくて陣の胸におでこを当てる。そして小さな声で、うん、と呟いた。その頭をよしよし、と陣は撫でてくれる。 「俺たち、ゴールデンウィーク中に、かなり仲良くなったよなっ?」 「……」 颯太郎は顔が熱くなって布団に隠れた。本当に、視線を合わせるだけでドギマギしていたのが嘘のようだ。 「……陣」 「ん?」 颯太郎は少し身体を起こし、自ら彼の薄い唇に口付けた。触れるだけだったけれど、颯太郎はそれだけでも十分に満足して、驚いた顔の陣に微笑みかける。 「……っ、そーたろーっ!」 「うわっ」 やっぱりもう一回しよう、と陣は颯太郎を組み敷いた。颯太郎は陣の身体の変化に気付き、慌てて顔ごと視線を逸らす。 「ち、ちょっと……っ、おま、まだ勃つのか……っ?」 散々しただろ、と騒ぐけれど、そーだねー、と陣は首に顔をうずめてそこを食んできた。陣によってかなり敏感にされたそこは、彼の硬い歯と熱い舌が触れるだけで身体がビクビクと震えてしまう。 「自分でもビックリだよ」 バンドばっかりの生活だったのにさー、と陣は苦笑した。そして彼は嫌な事を思い出したのか、眉間に皺を寄せる。少し過去の話をしてもいい? と陣は颯太郎の隣に再び横になった。どうやら思い出した事で萎えてしまったらしい。 「俺さー、女運悪いって言ったじゃん? まあ、俺のせいでもあるんだけど……」 陣いわく、今までは告白されて付き合うばかりだったそうだ。バンドのファンだったり、バイト先の人だったり、近しい関係の女性が大半だったという。女性は守るものと思っていた陣は、断って泣かれるのが嫌で、告白されたらなるべく付き合うようにしていた。 颯太郎はまあ、そうなるよな、と納得する。綺麗な見た目に真っ直ぐな性格で明るい陣は、どこに行っても憧れの的になるだろう。 「付き合ったら好きにはなるんだけどさ、最終的には周りの人間関係引っ掻き回して終わるの」 全部そう、と陣は天井を見つめた。中には自分を傷付けてまで、陣に見て欲しいという子までいて、しんどくて別れたと言う。それは別れて正解だと颯太郎は思う。そして、どこかで見た構図だな、とあけみを思い出した。 「バンドに打ち込む俺が好きだと言いながら、バンドばかりに熱を注がないでって言うんだ」 それをバンドメンバーに相談したら、好きじゃないのに付き合うなと言われて、心外だと思ったらしい。 なるほど、と颯太郎は思う。陣の元カノたちは、みんな私を見て、と言いたかったようだ。 「今度告白されたり、好きな人ができたら相談しろって言われてて……」 しばらくは恋愛はいいかな、と思っていたら、颯太郎に出会ったのだ。颯太郎は男だし、気になっているけれど、さすがに相談しにくいと思っていたら、バンドメンバーから好きな人ができただろって言われたらしい。 「……俺そんなに分かりやすいかなぁ?」 颯太郎は頷く。陣は苦笑した。 「陣は表情と言動が全部一致してる。誤魔化す事ができないし、しようとも思ってないだろ?」 「うん、そうだね……」 陣はそう言い、鴇色からピンク色を纏わせた。颯太郎はすかさず言う。 「もうしないぞ」 すると陣は唸りながら颯太郎をぎゅうぎゅう抱き締めた。苦しい、と逃げようとした唇にチュッとキスをされ、恥ずかしくなって大人しく陣の腕に収まる。 陣は笑った。鴇色がふわりと広がる。 「颯太郎は、可愛いね」 うるさい、と颯太郎は消え入りそうな声で言い、そっと目を閉じる。 寝たフリをして陣の胸の鼓動を聞いていると、安心して本当に眠りに落ちてしまった。 初めて、自分に安心をくれた人……こんな人に出逢えたなら、自分の感情が見える能力も悪くない。そう思った。 「……おやすみ、颯太郎」 遠くで優しい声がした。

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