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第7話
次のリプレイが開始された直後、俺は二之宮に連絡を入れると、会いたさのあまり急ぎ足で喫茶店へ向かった。喫茶店付近のショーウィンドウで風を受けてうねった髪の毛を手櫛でさっと整えてから喫茶店のガラス扉を押した。
ガラス張りの窓から差し込む赤い夕陽に照らされた能瀬の姿が目に留まった。滑らかな白い肌は鮮やかな赤に染まり、色素の薄い髪は金色に縁取られている。夕陽色に染まる路地を物憂げな表情で眺める彼は容易に触れたら壊れてしまいそうな脆さを漂わせ、守ってやりたい、笑顔にしてやりたいと俺の保護欲を刺激する。
「あれ、能瀬」
二之宮が食い止めてくれているのだろう、白井はいなかった。
声を掛けると能瀬は路地から俺に視線を移した。俺を認識すると、能瀬は薄い唇を上げた。
「やぁ、中村くん。どうしたの」
「カラオケの帰り。勉強でもしようかと思って、立ち寄った。お前は待ち合わせか」
「うん、そんなところ」
能瀬は優しそうな笑みを向けるが、その先は教えてくれなかった。
「勉強、頑張ってね」
手短な対応はクラスメイトの距離感に相応しいものだった。一つ前のリプレイでは一緒に笑っていたというのに。親密になれないのが歯痒い。
「失礼いたします。お冷です」
背後から現れた店員が能瀬の正面にグラスを置いた。俺を連れだと勘違いしたのだろう。
「あー、一緒でもいいか? せっかくだし」
能瀬は一つ間を空けてから「どうぞ」と笑顔を向けた。
近況から始まり、ぽつぽつと会話を交わしているうちに、笑い声が増えてくる。
「この間さ、映画館に向かったんだけど、なかなか辿り着かなくてさ。すごく焦ったんだよね。……通り過ぎてた」
俺はふっと笑う。
「それどうしたの」
「一緒にいた友達が案内してくれた。そいつ、僕が道に迷っているのに気が付いていたんだ。でも、面白いから黙ってたんだ。ホテル街まで行っちゃって、そいつ、大爆笑してた」
「ははははは」
思わず腹を抱えて笑った。能瀬は抜けているところがあるようだ。可愛い。
「それでさ、店長が鍛えてんのに痩せねぇって、ぼやきながらジュースを飲むんだ。それだよ」
クスッと能瀬が笑う。
「ジュースを注ぎ足しといた」
「注いじゃったの? あはははは」
能瀬の笑い声に俺は自然と笑みが零れた。能瀬を笑顔にしたい、その笑顔を悲しみに曇らせたくない。少しでも助けになりたかった。
俺は剣道の時間にマンガの登場人物の必殺技を真似して怒られたこと、ファーストフード店で「アイスホット珈琲」と大声で注文して店員に笑われたこと、身振り手振りを交えて話し、能瀬を笑わせた。
「すごい好き」
薄い唇に笑みを残したまま、目尻に溜まった涙を拭った。
「え?」
「中村くんの話、すごい好きだよ」
「…………」
「面白いって言われないかい」
耳がカッと熱くなった。
そんな事を言われたら意識してしまう。
いや、会話への評価だ。何を自惚れているのだと自分を叱咤する。だが、加速する情熱は静止不能だった。もしかしたらと淡い期待すら抱いてしまう。
……能瀬のことが好きだ。
心中で呟きながら俺は赤くなった頬を指で掻いた。
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