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思い出すたくみくん

 なんなんだよあの青田だか青山だか知らないけど。  人の顔見て勝手に女だと思って一目惚れだの結婚前提にお付き合いだの、外見しか見てないでよくそんな事言えるな!ムカつく!  病院の職員駐車場へ向かってイライラしながらドスドスと中庭を歩く。のんびりチュンチュン歩いてた小鳥たちが、たくみの足音で驚いて逃げていく。  外見だけで勝手に好きだって勘違いするような奴は、強引に勘違いして襲ってくるような奴だから嫌いだ…。  たくみは高校の時に勝手な勘違いで自分を犯した担任教師の事を思い出していた。あいつは勉強が分からなければ放課後も教えてくれるいい先生だと思ってた。でも実際にはたくみの顔が好きなだけで、自分に勉強を訊いてくるたくみは、自分の事が好きなんだと思い込んでる勘違い野郎だった。  制服のシャツで腕をぐるぐるに縛られて、口にはハンカチを詰められて、君は女の子みたいに可愛いねだの、僕の事が好きだからこうして放課後来てくれるんだよねだの、たくみの話は何も聞かずに自分勝手に陶酔しながら俺を犯したあの担任教師。話を聞かずというか、俺の口にハンカチを詰めた時点で俺の話を聞く気がなかった最低教師だ。教師という皮を被った完全に自己中なモンスターだった。  最悪の経験だったはずなのに、たくみは自分が犯されながら、ちんこよりもお尻の中の方が感じることに気づいてしまった。  最悪な経験の中で気づいた最悪の事柄だった。しばらくはショックだったが、どうせ一回ヤられてるし、お尻の方が気持ちいいなら…と、同意の上のセフレを見つけるようになったのだ。    あの経験がなければなぁ、俺も今頃可愛い彼女とかいたかもしれないのにな…。医者の仕事に理解ある可愛い彼女…とかね。    愛車の前に着き、鍵を出そうともたもたしていたら、後ろから砂利を踏む音がした。  職員のだれかなら挨拶して帰ろうと振り向くとそこには、 「…もさ男?」 「お疲れ様です…」 「お疲れ。なんか、元気ないな?」 「元気?そんなもんなくなるよ…。会ったばっかの研修医にセフレなら…とか言ってる想い人見ちゃったらさ…」 「あぁ、聞こえてたんだ。お前にも最初セフレならいいよって言ったじゃん。どうせ外見で付き合ってって言ってるんだろ?出会ってすぐに言ってきたんだから…」 「たくちゃん…そんな風に思ってたんだ。……じゃぁ、お疲れ様」  こっちの返事も聞かずにもさ男は自分の車に乗り込んで帰っていった。  たくちゃん?俺の事そんな風に呼んでなかったよな?あれ?そんな風に呼ばれた事あったような、ないような。もやもやする、なにかが引っ掛かるような気がした。

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