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小児病棟
今日の午後は小児病棟へ。入院してる子達の診察だ。
昨日変な別れ方をしたもさ男は珍しく昼飯の誘いには来ず…。
ほっとしたような、どうせここで顔合わせるんだから、さっさと顔見ていつもと変わらないもさ男なの確認しときたかったような。
小児病棟は他の入院病棟とは違って、自動ドアをくぐるとファンシーなキャラクターのイラストが壁に貼ってあったり、可愛いぬいぐるみが置いてあったり、絵本コーナーもあって、ちょっと和む。
もちろん、苦しんでる子達を診るのは辛い時もあるけど、幸いにして今は重症患者は居らず、友達同士になって一緒に遊んでる姿も見かける。
「たくみせんせ~い」
入退院を繰り返す子や、人懐こい子はたくみ先生呼びで可愛いものだ。
で、隣のもさ男…。俺には話しかけてこない…。なんだどうした。
「みどり先生。なんで今日は髪の毛結んでないの?」
もさ男にも患者の女の子が話しかけてきた。
髪の毛結んでる?俺はいっつもこのもさ男しか見たことないけど?
「いつものちょんまげ?噴水みたいの可愛いのに」
「先生それで前見えるの?お目々痛くない?」
「み、みんな、診察の時間だからベッドで待とうね」
わらわら集まってきた子供たちにベッドで待ってと言うもさ男。子供たちは先生早く来てね~とか言いながら散っていった。
「なにお前、いつもは診察ん時髪結んでんの?俺見たことないけど。どんな目してんの?そんな隠さなくていいじゃん。別にどんなでも笑わないし」
言いながらもさ男の前髪をあげてみたら、少しグリーンがかったぱっちり二重の両目がこちらを見ていた。あれ?俺この目、知ってる?
「恥ずかしいから止めて下さい」
もさ男の目に釘付けになって固まってたら、手を振り払われた。
「なんだよ減るもんじゃねぇし。綺麗な目してるのに隠してるの勿体ないじゃん」
「たくちゃんは、忘れてても綺麗な目って言ってくれるんだね」
「えっ、何?ごめん、よく聞こえなかった」
「いえ、大した事じゃないです。早く診察行きましょう。子供たちが待ってるから」
もさ男はもさもさした癖っ毛の髪で目の辺りを隠して整えながら(整えてんだかよく分かんねーけど)先を促した。
「じゃぁ、いつも通りお前そっちからで俺反対側からな」
「はい」
あの目。わざわざカラコンいれてるわけじゃなさそうだし。本物だよな。見たことある気がするような思い出せない。
見た目で付き合ってって言ったと思ってた。そう言ったらもさ男は怒った感じだった。あいつは俺を知ってる?俺もあいつを知ってる?
俺の記憶がないのは幼い頃だけのはず。何か思い出さなきゃいけない気になる。
でも今は診察。白衣を正して、子供たちが待つ病室へ向かった。
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