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眠い

 眠い。ひたすら眠い。  昨日モヤモヤついでに斎藤さんと盛り上がってしまって、寝不足だからに他ならない。  それでもというか当たり前なんだけど、朝はいつも通りやってきて、俺は小児科医という仕事柄、朝栄養ドリンクを飲み、午前中はどうにか集中して診察をやりきった。  眠気のせいで診察中ボーっとしてしまったりしたら自分が許せない。  患者である子供達は俺にとっては多数いて、順番に診ていく存在だけど、子供側からしたら、順番待ちをしてやっと診てもらう先生は一人なんだ。  一人ずつちゃんと把握して診なきゃ絶対に後悔する。  だったらなんで昨日早く帰らなかったの~、盛り上がっちゃったの~と言われれば、まぁ、返す言葉がなく、すみませんその通り俺が悪いんですとしか言えないのであった。  バタバタ騒がしい足音と、婦長の「先生!院内走らないで下さい!」の声。久しく聞いてなかった音達に、少しホッとする。 「匠先生。お昼一緒に行きましょうか」 聞き慣れた音を出して診察室にやって来たのは、勿論もさ男。いつものハイテンションお誘いではなく、落ち着いた小児科医という雰囲気を出している。  あんまり断るのも可哀想だが、見せ物パンダになる気もない。ここはもうキッパリハッキリお前とは昼食を一緒に食べる気がないって伝えた方が親切ってもの。 「もさ男。お前が嫌いとかそんなじゃなくてさ、俺ら一緒に食べてると話題の的、注目の的になるみたいで嫌なんだよ。だからここで社食に一緒に行くってのはもうないから、誘わなくていいいから」 「ぼそ、ぼそぼそぼそ……」 「なに?聞こえないから普通の音量で話してくれない?」 もさ男は一歩二歩と近づいてきて、少し屈んで俺の耳許で話した。 「普通の音量で言われたら困る癖に。セフレとはスケベな事するのに、俺とはお昼すら一緒に食べてくれないの?昨日もシてきたんでしょ?」 「はっ?なっんで分かったんだよ」 「匠先生は案外真面目に子供たちの事考えてて、自分の体調万全でいつも出勤して来てるはず。どうしても体調悪い時もあるかもしれないけど、寝不足って時はない。寝不足でクマまで出来てるのは、昨日そういうことしてて遅くなった時だけ。でしょ?」  なんっでこいつそんな事まで知ってんだよ!見透かされてるみたいでむかつく!それかこいつがストーカーみたいに俺の観察してたかってことだよな!  頭にきたから、無言で診察室を出た。後ろからもさ男が追ってくる。コンパスの長さの違いで俺のはや歩きに余裕で着いてくるのもむかつく!誰のせいで!俺が誰のせいでモヤってると思ってんだよ!!

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