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運命

 自分の診察室を飛び出して、院内の中庭に出られる出入口まではや歩きで歩く。着いてくるもさ男。 「匠先生。待って下さい!」  待てと言われて待てるなら逃げるわけがない。院内だからとどうにか走らずにはや歩きしているわけで、気持ち的には走って逃げてる。悲しいかなコンパスの差でもさ男はそんなに急いでるようには感じられない。こちとら競歩くらいの勢いで歩いているのにだ。  中庭は0、5階分低い位置にあるため、廊下から階段を下る。下るというか途中から飛び降りてダッシュかますつもりで走り降りた。もうここまで来たら患者もいないし、煩い婦長に告げ口する者もいないだろう。  余りに急いでいて足が縺れる。危ない!そう思った時には、体が宙に浮いていた。  痛……くない?確実に落ちたとおもうんだけど、肉布団のようなものに乗ってるせいか。肉布団?どうやら、もさ男を下敷きにして体は痛みがないようだった。はぁ、良かった…もさ男大丈夫か?と思いながら、ここで記憶が途切れた。   *    *    *  目が覚めたら自分の部屋ではない白い天井が見えた。う~ん、なんだここ。昨日は斎藤さんと会ったものの、どうにか朝方自宅に戻って自宅で僅かに寝たはず。どこだここは。  考えて考えて、今日はもう午前の仕事は済んだことを思い出した。で、よく見たらこの部屋は見覚えのある宿直室じゃないか。  なるほどなるほど。ん?まだ午前の仕事が終わっただけなのに、なんで寝てたんだ?  状況把握するため考えていたら、宿直室のドアが開いた。 「匠先生、目が覚めたようですね。大丈夫ですか?一応サンドイッチとか野菜ジュース買ってきました…」 おや?  横になってたベッドから飛び降りて、入ってきた大男に飛び付いて、大男の邪魔な前髪をどけて顔を見る。  そこにはグリーンがかった綺麗な瞳が。 「あー!みーちゃんだろ?!久しぶりだな!こんなに背が高くなって!」 「匠先生、思い出したんですか?」 「思い出した?なに言ってんだって。俺がみーちゃんの事忘れるわけないじゃん!みーちゃんこそ、他人行儀なのやめて、ため口でたくちゃんて呼んでよ!」  そこにいた大男は、俺の幼なじみであり、守りたかった人物でもあるみーちゃんで。  俺はみーちゃんの為に小児科医になりたいって子供の頃に思い付いたんだ。  みーちゃんもこの病院に就職したのか。時期的に中途採用? 「みーちゃんここの病院に採用になったのか?なら一緒に働けるんだな!何科?」 「えっ…小児科医…」 「俺も同じ!小児科医!一緒に頑張ろうな!いやぁまさか、俺が小児科医になりたかった理由のみーちゃんと同じ小児科医として出会えるなんて運命みたいな話だな」

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