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 赤ちゃんの泣き声やら、遊びたい盛りなのに大人しく待ってなきゃならなくて、それでも座ってはいられずにウロウロし出す子供だの、待合室は今日も賑やかな様子だった。あっちで愚図っても、診察室に入ってくると、お利口さんに「たくみせんしぇ、こんにちは」とか言い出すのは可愛いもんだ。赤ちゃんが泣いているのは仕方ない。元気に証拠だ。痛がって泣いてる場合もあるから、その辺の見極めはしっかりしなくちゃならない。  そんなこんなで今日も慌ただしい午前の診察が終わり、ふーっと午前座り続けた背もたれつきの椅子の上で背筋を伸ばす。  一息ついて昼飯行くかともそもそ動き出すと、バタバタ騒がしい足音。「走らないでって言ってるでしょ!」という婦長の声。 「たくちゃん!お昼一緒に食べよう!」  昨日までの俺ならここは断って一人で食べるんだけど、今の俺はみーちゃんを思い出した幼馴染みのたくちゃんだ。(ややこしい!)  もちろんお昼くらい一緒に食べる。が、しかし、俺たち二人で社食に行けば注目を浴びたり、仲の良い先生たちにからかわれたりする可能性もある。  さて、どこで食べるのが正解なんだ?と考えこんでいたらみーちゃんから提案が。 「たくちゃん、売店で買って宿直室で二人でなら一緒に食べてくれる?鍵は借りてあるから」 宿直室?そんなら二人だし、俺がみーちゃんと真面目にお付き合いする不安についても話せるし、注目もされない。    おまけに既に鍵は借りてあるときた。  みーちゃん、なんだか抜け目のない男に育ってる?  これは断る理由がないどころか、望むところだ。 「分かった。宿直室いいと思う」  なんで宿直室の鍵もうゲットしてんだよ、みーちゃん何者?という疑問は残るものの、まぁそこは深く追及しないでおこう。  宿直室と言えば、確かあの心療内科医の悠仁さんがいつも昼寝するのに使ってたな~。なん部屋かあるから大丈夫なんだろう。  一階の売店に向かって、職員しか行けない建物の宿直室に行くだけのルートだったのに、行き着くまでに注目されることと言ったら…もぉ。油断した。みーちゃんは190㎝近い身長ってだけで、通りすがりの人に見られたりはしてたんだ。  その上、今では髪をさっぱり切ってグリーンの瞳に高い鼻で、ハーフのイケメン医師が歩いてますって看板しょって歩いてるようなもんだ。  モテちゃうよ…。このままじゃモテちゃう…。みーちゃんの髪切ろうって提案した俺が悪かったのか…。

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