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いよいよ

 離れがたさはずっと続いてしまってて、書類が終わらないらしいみーちゃんを待って、一緒に帰ることにした。 「昨日までは翠先生が匠先生を追いかけてたのに、今日は匠先生が翠先生を忠犬みたいに待ってるわ。二人の間に何があったのかしら」 噂好きな看護師(腐女子という人種かもしれない)二人組がコソコソと話をしている。二人はこっそり話してるつもりだったんだろうが、会話が盛り上がってしまったらしく、声量の方も内緒話向きではない声量になっていた。  別にいいさ。俺とみーちゃんの関係を分かってもらおうとは思わない。勝手に想像して楽しんでればいいじゃない。こっちは今日どうやってみーちゃんを誘おうかと色々とシミュレーション中なんだ。  みーちゃんは自分の診察室で作業するのが好きなようで、患者がいなくなった静かな診察室でパソコンと向き合ってる。俺はその後ろでキャスター付きの椅子を借りて、カラカラカラ~と横に移動してみーちゃんの横顔見てみたり、コーヒー淹れてきて後ろで飲んだり。    一杯飲み終わった辺りで飽きてしまった。 「みーちゃん、入力俺も手伝おうか?」 「ん?えぇっ!たくちゃんいつからそこにいたの?!こ、これはいつもの業務じゃなくて論文だから手伝ってもらえる事ないんだよね…」  みーちゃんは大分集中してたようで、俺が後ろから声かけたら、振り向きながら椅子からずり落ちそうになった。後ろでキャスター付きの椅子で移動してたりコーヒー飲んでたの煩くないどころか、全く聞こえてなかったんだな。 「なんとなく離れるの淋しくて、一緒に帰ろうと思って待ってたんだけど時間かかりそう?」 「大丈夫。急いでるものじゃないから。待っててくれたんなら送るよ。今帰る用意するから」  パソコンの電源を落として部屋の明かりを消し、ロッカールームへ向かう。俺はもう帰る準備万端だったから、駐車場の方で待っててもいいんだけど、みーちゃんに着いてくことにした。 「たくちゃんもしかしてだけど、ずっと俺の後ろで待っててくれたの?」 「そうだよ。椅子に座ってるねって声かけて、返事なかったけど否定もしないから待ってようと思って。んで、コーヒー一杯飲んだとこで待ってるの飽きてきて声かけたんだ」 「そうだったんだ。たくちゃんの気配に気づかないなんて不覚だ。なんて惜しいことしたんだ。俺のこと待っててくれるたくちゃんなんて絶対可愛いでしかないじゃないか」 「みーちゃんブツブツ言ってるのは俺に言ってるの?それとも独り言?」 「あっ、…独り言、です」 「たくちゃん待っててくれたから夕飯奢るからさ、どこかお店寄っていこうよ」  

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