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 黒ぶちメガネをかけて襟元を直した翠。 「さっ、たくちゃん行こう」  あっさり仕事モードに戻るんだ。さっきまで俺に頭ぐりぐり甘えてた男には見えない…カッコいい……そう、毎回のように惚れ直す俺も案外単純でおバカだよね。 「はい、翠先生」  院内、宿直室以外ではお互いに先生呼び。これは2人でね、切り替えは大事だからって、決めたんだ。  ガチャ、バタン。二人分の足音が遠ざかっていく。  ちっ、やっと行ったか……午後からの仕事前、毎回のように繰り広げられるたくちゃん行かないで攻撃。今日は短い方だ。  しっかし、翠の匠に対する独占欲や執着は病的だけど、匠、あいつもやべーぞ。  一見あいつは普通に見えるんだけど、翠の独占欲は見てる方でさえ胸焼けおこすのに、あいつはそれを快感だと感じてる。  要はお互い共依存が過ぎるんだよ。そう、一言で言い表すならこれがピッタリだ。  いい昼寝場所を手にいれて満足な俺だけど、たまに隣から情事の声が聞こえるようになった時はキレそうになった。  おい、大病院の癖に防音どうなってやがる!俺の安眠、俺の安らぎの場所、乗り込んでブチギレてやる!意気込んで立ち上がりかけた時気づいてしまった。  匠の声、すげぇイイんだよ…。普段話す時も男にしては高めのキレイな声してんなと思ったけど、喘ぎ声までも。結構ツボだったりする。案外声フェチ入ってる自覚のある俺は、最近は隣でおっぱじまっても、匠の声聞けりゃいいやと、それも楽しめるようになった。  誤解を生まないように言っておくが、別に俺自信ゲイってわけじゃないからな?好きになった相手が女だろうと男だろうとどちらでもいいと思ってるから、あいつらに偏見はないし、今までどちらの恋人もいた。と、いらない情報だったな。  さて、俺もぼちぼち自分の診察室に行くか。  あ~、まだねみぃ。患者が宿直室に来てくれりゃぁ楽なのにな。

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