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第14話終わりにしたい

廊下に出ると黒のマントを羽織り、フードを深く被る。 ジュリは誰にも見つからないよう辺りを見回しながら足音を立てないように歩き出した。 使用人専用の扉を開き螺旋階段を下る。一階まで降り、外に出るための扉を開けた時だった。 「ジュリさん!」 声がした方を見上げると、マーリンが螺旋階段の上から慌てて駆け下りてくるのが見えた。 「ジュリさん、帰られるんですか!?」 余程急いで走って来たのかマーリンはジュリに追いつくと、はー、はー、と息を荒げながら胸を押さえている。 「マーリンさん大丈夫?」 「は、はい、大丈夫です!……あの、会ってすぐ聞くのは申し訳ないんですけど……昨晩はどうだったんでしょうか」 顔を赤らめながら恥ずかしそうに聞くマーリンを見て、ジュリは、あぁ、と頷いた。 「そうだ、言わないと。大丈夫、ちゃんと勃ったし、抱かれてはいないけどラットにもなってたよ」 「えっ!?そうなんですか……。あぁ、これまでの苦労がやっと報われた……」 「ははっ、良かったね。……それで申し訳ないんだけど、勇者様に会うのもうこれきりにしてほしいんだ」 その言葉を聞いた途端さっきまで笑顔で涙ぐんでいたマーリンの表情がだんだん青ざめていく。 「どうしてです?もしかして暴力を振るわれたとか……」 「違う違う!優しかったよ。男娼相手なのに頭も撫でてくれてさ……。でも、やっぱりラットが怖くなっちゃって」 そう言ってジュリは自分のチョーカーを指差した。オメガにとって、『項を噛まれる』というのは一生を左右する問題なのだ。 アルファがヒート時のオメガの項を噛まれることによって生じる番という”契約”。噛まれてしまえばオメガのフェロモンは番のアルファしかわからないし、ヒートもだいぶ楽になると言われている。だが、オメガは生涯、番に出来るアルファはただ一人と言われている。 もしアルファに番を解除されてしまったら、オメガは誰にも感じてもらえなくなったヒートを生涯一人で乗り切るしかなく、それに耐えられなくなったオメガは命を絶ってしまうこともあるのだ。 「今回は無事だったけど、もしラットに反応してヒート起こしちゃったり……それこそ僕なんかが番になったりしたら大変でしょ?」 ジュリは申し訳なさそうに微笑むと、マーリンの肩にポンと手を置いた。 「だからこの件はこれでお終いにしてほしい。借金の事も弟たちの事も、もういいから」 「でもっ!それでは……」 「ふかふかのベッドで一晩眠れただけで十分!マーリンさんありがと、レミウスさんにもよろしくね」 ジュリはマーリンの肩から手を離すと着ていたマントを手渡す。 じゃあ、と言い持っていたバッグの取っ手を握り直すと、外に向かって歩き出した。 その時、後ろからマーリンが叫んだ。 「……ジュリさん!この件はレミウス様にも報告します。その、おそらくレミウス様も『ここまで協力してくださったのに』、とおっしゃると思います」 男娼とはいえ、一般市民のジュリに勇者の相手をしてもらいながら何のお返しもしないのは王宮としても申し訳ないのだろう。 マーリンの困った表情を見たジュリは、うーん、と頭をひねらせた後、人差し指を立て、そうだ!と声を上げた。 「じゃあ、もし次会うことが会ったら、金平糖!あの金平糖たくさん欲しい!」 なーんてね、と最後に言い残すとジュリは自分の居場所である娼館に帰ったのであった。

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