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第37話聞こえてきた声
足音を立てないよう走り使用人専用通路を目指す。
幸いこの時間に起きている城の人間は守衛や外を警護している一部の騎士団員くらいで小柄なジュリ一人が森に向かうことくらいはそう難しい事ではなかった。
螺旋階段を降りそっと外へ繋がる扉を開ける。顔だけ出して辺りを見回すとちょうど守衛の入れ替わりの時間らしくジュリに背を向けて城の正門に向かって歩いていた。
ー-出るなら今しかないっ……!
ぐっと拳に力を込めると身を低くし、城の壁に沿いながら森を目指して走る。
オメガはアルファや頑丈なベータに比べもともとの体力がない。ジュリも例外ではなく、まだ森も見えていないのに息が上がり足が上がらなくなっていた。
それでも休むわけにはいかない。ジュリは自分の顔を平手で叩くと足を引きずりながら森に向かった。
「確か、ここら辺だったはず・・・・・・」
森の中。持ってきていたろうそくにマッチで火をつけ、目を凝らし地面を食い入るようにランチクロスを探す。
「レベッカさんに借りたランチクロス。絶対、見つけないと」
眉を寄せ真剣な表情のジュリは腰をかがめ一歩一歩ゆっくり歩きながら探す。時折、足や腕に伸びきった木の枝が刺さり血を滲ませたが、それを気にせずジュリは探し続けた。
ー-あれ、この香り・・・・・・?。
石を投げられた場所からわずか数メートル。草木がぼうぼうと生い茂る場所からふわっとほんの微量だが自分のフェロモンが風に乗って漂ってくるのを感じる。ジュリはろうそくを地面に置くと急いで香りがする場所へ走った。
四つん這いになり、両手と顔を草木に突っ込みながら香りが濃くなる場所まで這いつくばりながら進む。
進んですぐの事だった。這いつくばったまま右手で草木をかき分けると、目の前にはタッパーが包んであるランチクロスが草と土で汚れてはいたが壊されずに置いてあった。
「よかったっ・・・・・・」
ほっとしたのかジュリは眉を下げ優しく微笑みながら、それを抱きしめる。
よく見ると、クロスの結び目から蟻が何匹も湧きだし、腐敗臭がジュリの鼻をツンとさした。
「中身は腐っちゃってもしょうがないけど、クロスは洗えば何とかなるかな」
手で虫や土埃を払い落とすと、ジュリはそれを大事そうに抱えたまま誰にも見つからないよう王宮の部屋まで走った。
戻る途中、辺りは驚くほど何の気配もなかった。誰にも見つかることなく螺旋階段の場所までたどり着くと、ジュリはほっとした表情でフードを外し、上がった息を整えた。
ジュリの部屋は三階。そこまでくればもう安心だろうと階段を上り始めた。
音を立てないように踵からそっと歩く。気を抜けば金属音が響きそうになるのを神経を尖らせながら一歩ずつ歩いていると、ちょうど階段の二階に繋がる扉から男の声が聞こえてきた。
ー-どうしよう、ここで見つかったら部屋を抜け出していたのがばれてしまう。
一気に緊張が走り、ジュリの顔が強張る。背中にじんわりと汗をかき、緊張で足も手も固まってしまった。
その時だった。
「だから、ジュリさんのこれからの・・・・・・」
突然聞こえた自分の名前。あまりの驚きで声が出そうになるのを何とか手で口を押さえる。
話の続きが気になったジュリは、恐る恐る忍び足で扉に近づくと耳をそっと扉にあてた。
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