「ジュン、今お風呂に行ってて。もうすぐ帰ってくると思うけど……ちょっと待ってて」 ケイは部屋の中央に置かれているローテーブルの前まで二人を案内し座るよう促した。 部屋汚くてごめん、と言いながら床に乱雑に敷かれた毛布をベッドの上に放り投げ、そのまま窓際まで歩きレースカーテンを開ける。 窓を全開にすると暖かい光と少しひんやりした風が部屋の中に入ってくる。その冷たい風にわざとあたるようにケイは窓辺から離れようとせず目を伏せ寂しそうな顔をさせていた。 「ただいま～。あーさっぱりした！って、え？お兄ちゃん……と、誰？！」 突然ドアが開く。 陽気な声をさせながら部屋に入ってきたのはこの部屋のもう一人の住人、ジュンだった。 「ジュン！おかえり、えっとこちらは、」 「はじめまして。ショウ・ミヤウチです。ジュリとの結婚について話をしたくて、ここに来ました」 その場で立ち上がりジュンに向かって頭を下げる。 「あっ！……勇者様？お兄ちゃんが言ってた会わせたい人って勇者様だったんだね！」 やっぱそうか～、と言いながらショウに近づくと「んんっ……」と咳ばらいをした後にっこりと微笑んだ。 「はじめまして。ジュリお兄ちゃんの双子の弟のジュンです。で、……あっちで黄昏てるのは双子のケイです」 そういうとジュンはニヤリと笑いながらケイの方を指さした。 「うっさいぞ、ジュン！話あるってんだから、さっさと話そうよ」 ケイは名前を言われたのが嫌だったのか不機嫌そうな顔でジュンを睨むと、ローテーブルの前に黙って座った。 その様子を見たジュンはごめんごめんと言いケイの隣に正座した。 ローテーブルを間に向かい合う様にジュンの前にジュリ、ケイの前にショウが座る。 全員が座り話を切り出したのはジュリだった。 「あのね。ジュンとケイに相談が合って。お兄ちゃん、ショウと結婚しようと思うんだ」 「わぁ！おめでとうお兄ちゃん！」 「あ、ありがとうジュン。でね、突然なんんだけど、視察が終わる一か月後にここを出て王宮に行くんだけど、ジュンとケイも来てくれる？」 ジュンとケイの手を握り尋ねる。 きっと一緒に行く、って言ってくれるはず。そう思い力強く二人の手を握りしめたが、二人の反応はジュリが思っていたものとは違った。 ジュンとケイはお互い顔を見合わせると、小さく頷きゆっくりと話し出した。 「お兄ちゃん、ごめん。僕たちは行かないよ……」 「もちろん学校も通えるよう手続きするし、不便がないよう君たちに必要なものは全て整える。せっかく兄弟一緒に暮らせるんだ」 思ってもいなかった「行かない」の返事に今度はショウが説得するも二人は俯いたまま首をふるだけだ。 「そんなんいらねえよ。ただ、俺たち兄ちゃんが苦労してたのに気づかないままずっと頼ってて……。いつも兄ちゃんに助けてもらってばっかでこんなん嫌なんだよ！」 「助けてもらってばっかなのは僕の方だよ…… ！」 「違うんだ！お兄ちゃん。僕たちね実は決めてたんだ。お兄ちゃんを守れるような人間になるって……。もう守られるだけの存在でいたくないんだ。本当は学校卒業したら僕とケイで家を借りて……って話してたんだけどお迎えが来たんならしょうがない！ジュリお兄ちゃんは僕たちの事気にしないで幸せになって！」 嬉しそうに話すジュンの目尻には今にも零れそうな涙が溜まっている。 「でも、ジュンとケイをここに置いていくのは……」 「それは心配ねえよ」 俯いたままだったケイが顔をあげ、真剣な表情でジュリの顔を見据えた。 「もともと兄ちゃんが出産ってなったら代わりにここで雇ってもらえるよう頼んでた。マグノリアさんからの許可は得てるしここで働きながら学校に行くつもりなんだよ」 二人はもう一度お互いの顔を見合うと今度はにっと笑いながら大きく頷いた。 「お兄ちゃん、幸せになってね！どれだけ離れてても僕たちはずっと兄弟だよ！」 「おい、勇者。ジュリ兄ちゃんの事泣かすなよ、泣かしたら俺らが連れ戻すからな」 二人の笑顔はジュリが思っているよりずっと頼もしく、力強かった。 ――もう小さいだけの二人じゃないんだな……。 二人の成長に嬉しさと少しの寂しさを感じながらジュリは「ありがとう」と微笑んだ。