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第82話決闘①
「絶対に生きて帰ってきて……!」
ジュリの声を背中に受けながら馬を走らす。
本当は怖い、自分がジュリとの約束を守れるかどうかわからない。
だけどなぜ自分がこの世界に呼ばれたのかー-
デビアスを倒すため、そしてジュリが幸せに暮らせる世界にするため。
それを実現出来るのは自分しかいない。
わかっていたから、ショウは振り向くことなく前に進むことができたのだ。
ー-あいつの狙いは俺だ。そして次に狙うのは俺の血を受け継ぐジュリのお腹の子だろう。
ならば俺にできることはジュリに被害が出ないように少しでも遠くに行くことだ。
眉間にしわを寄せ手綱を強く握る。
馬の揺れに合わせて腰に刺さった金色の長剣が揺れる。
ー-いよいよこれを使う日が来たんだな。
視線を下げ左手で剣のグリップ部分を握ると、睨みつけるように前を見据えた。
ー---
「なんか、この辺りの空気が重いです……」
「気をつけろよ、ネイサン。……恐らくヤツはいる」
山の中腹から馬を降り、少し進んだところでショウとネイサンは立ち止まった。
だんだんと濃くなる不吉な気配に体がぶるりと震える。
おそらくまだ午後三時を回った頃だろう。それなのにもう日が沈んでいるかのように暗くそこだけが急に違う場所に来てしまった感覚がする。
ー-おかしい。
耳を澄ませ警戒しながら辺りを見回す。
聞こえるのは風に揺られる木の葉の音くらいで、いつまで経ってもデビアスが現れる気配がしない。
「ネイサン、勘が外れたかもしれない。もう少し進んでみよう」
そう言いネイサンのほうに振り向いた時だった。
黒く大きな”なにか”が勢いよく落ちてくるのが見えた。
それは一瞬にしてネイサンの背後に回り込み黒い剣のようなものを勢いよくネイサンの頭に向かって振りかざした。
「ネイサン!!」
にやりと笑ったそれと目が合う。
不気味に開いた口からは鋭い牙がギラリと光っている。
ー-デビアスか……!!
気づくと同時に自身もソードベルトから長剣を引き抜いていた。
「避けろ!!」
「……っ!」
ショウの叫びを聞いて咄嗟に躱そうとしたがネイサンだったが完全に避けることが出来ず脇腹を刺されていたのだ。
苦しそうに唸りながらその場にうずくまる。
ショウは慌てて駆け寄りネイサンの体を抱きしめた。
「はっ、はっ、」と荒い息のまま抑えている団服をよく見ると脇腹のあたりから真っ赤な血が滲みだしていた。
「……!貴様っ……!!」
こんなに怒りで震えることがあるのだろうか。
ショウの額には青筋がたち握りしめた拳には血管が浮き出ていた。
立ち上がり長剣を構える。
見据えた先にはデビアスが不敵な笑みを浮かべている。
その表情は戦いを楽しんでいるかのようで、ショウを挑発するには十分だった。
「デビアスッ……!!お前はここで倒す!!」
「おいおい、お仲間を待たなくてもいいのか?正直、お前一人では弱すぎるぞ。あっでも血が塗られた矢は面白かったぞ。一瞬痺れた感じがしたからな」
「くくくっ」と馬鹿にしたように笑うデビアス。
その姿にショウはぎりぎりと音がするほど強く歯を噛み、射殺すような瞳で睨む。
「仲間を待たくても俺一人でじゅうぶんだ」
その言葉と同時にデビアスに飛び掛かった。
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