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第5話
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弱ったな。と最初に浮かび、程無くして、困った。と重なる。
つい数週間前も字面としては同じ事を思っていたが、あの時とは関係が大きく異なっている。
自身に備わっていると認識していなかった諸々の機能について、未だ完全には受け入れられていない自覚はある。しかしそれは、受け入れたい、受け入れたくない、といった感情面での問題ではなく、只々、処理が追い付いていないからだと言った方が正しい。
今回の事もそれ故に……それから、恥ずかしさが故に、応えるべきタイミングを逃した上に意地になってしまったという点については、早くも後悔している。
だが反面、仕方がないだろう、と誰に言うでもなしに浮かぶ。昴とて少々強引なところがあったのは事実だ。
第一、甘く笑うのがやけに上手いのもいけないのだ。あの歳でああとは末恐ろしい。
身体接触を伴う愛情表現を行う間際や最中、瞳の奥からは雄の気配をさせるくせに、ふっ、と柔らかく愛おしさを零すあの表情を向けられると、彼が俺に抱く感情とこれから起こる事との予測が押し寄せて、碌に物事が考えられなくなってしまうのだから、反則技だと言っても良いくらいだ。
そのような理由で、与えられるものの全てを円滑に受け取り、理想的な形で返す事は難しく。何某かの答えを必死で表現してみてはいるものの、この身が持つ本来の性能からは考えられない程、いつも酷く不恰好なものになってしまっていた。
しかし、だからこそ、いつか充分な形で彼に応えたいとは思っていた。
だって、昴はとても……その……。俺の事を、愛おしいと思ってくれているから。
そして、俺も彼と同じだ、と。今ははっきりと感じているから。
『協力者を確保し続ける為に自己の認識を歪めているのではないか』という恐ろしい懸念すらも、有耶無耶になってしまう程に。
「だからと言って、無茶だろう……。」
滅多にする事のない独り言を溢してしまうくらいに、昴からの要求は凄まじい難題だった。
『応えた方が良い』という判断は下っている。『応えたい』という感情にも同意出来る。しかし、肝心の『どう応えるか』の具体例が浮かぶ度に、とても恥ずかしく、想像するだけで手一杯になる程、この身はそういった事が不得手だった。
試しに、誘うように恋人の肌に触れ、妖艶に唇を寄せる誰かの行動を拾い上げてみる。だが、自分達に当て嵌めた途端に思い浮かべた映像がスパンッと途切れてしまう。
ああ、無理だ。駄目だ。恥ずかしい。現実的ではない。
それなのに、見上げた先の誰かと入れ替わった彼の優しく色香に満ちた眼差しが、こびり付いて離れなかった。
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