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第9話

はぁ。って、溜息と感嘆が合わさったような音が口から溢れる。 挿れた途端にイったら恥ずいな、って思うくらいには興奮してたし我慢してた。けど実際は、気持ち良さ以上になんて言ったら良いのか分かんない感動が押し寄せて、物凄く満たされた。  だって好きな人が、遙が、オレの事を受け入れてくれてる。  譲れないところがあったって言っても、この何日かはかなり良くない態度を取ってた自覚はある。だから、好きだって気持ちと、それから、オレは遙のだって事を、改めてするからには伝えたかった。けど同じくらい、遙もオレのだよな? ってしたかった。  挿れたい、っていうのは男としての欲求以外にもそういうとこからで、すんなりいけるもんでもないらしいし、正直なところ遙の体的にも気持ち的にも賭けみたいなもんだった。 「んっ、んっ……ふ……ぅんっ……んんっ」 「ごめん、まだ苦しい?」  なのに、受け入れてくれて、しかも感じてくれるなんて。  たぶん、こっちを気持ち良くする為の作りは女子のそれに比べて劣ってる。けど、そういう為じゃないはずの場所が、押し進めると“来て”って言ってるみたいに柔らかくなって、出て行こうとするときゅぅって健気に絡み付いて来るんだから、愛おしいと思わずになんかいられない。  謎の感動のおかげで程良く落ち着いた衝動と、もっともっと愛してあげたい一心で浅い所を往復し、さっき遙が悦んでたところを擦った。 「ん……んぅっ……っあ……んっ……っあ、やっ……やぁあ……あんっ……んぁ……あ、だめ……っあ……だ……め……ぁんんっ……」  素直な言葉を聞きたい願望も、この蕩けきった表情と声で忘れそうだ。  溢れ落ちそうな程に潤んだ夜色は真夏の温度がけぶる。それに溶かされた飴玉のような視線で見上げられて、思わず喉が鳴った。  ダメ、イヤって何度も言うくせに体はとっくに負けてて、懸命にシーツを握る手を裏切った腰が律動を止められる度に揺れて、掻き回してやるとナカが畝った。 「あぁっ……あぁっ……! ぐりゅって、するの、だめっ……ぅあ……っあ……ごりゅごりゅ、やだ……ぐちゅぐちゅも、やっ……っあ、っあ、だめっ……あんっ……やだっ……いやだ……がまん、できなくなるからぁっ」  ぐっ、と本能のままに突き入れてしまってから、誤魔化すように抱き締める。 「────本っ当、最高」  あっぶな。完全に持ってかれるとこだった。つーか正直まだやばい。  拒否に聞こえる事を言っていても、本当はそうじゃないってのは分かってたけど。分かってると思ってたけど、本人の口から言われるのは相当やばい。  濡れそぼった遙自身を扱いて、きゅうきゅう媚びるナカを自分自身で突き上げて、奥の奥まで暴いて支配したい。そんな酷い欲望が腹の中で煮えている。 「大丈夫? もうちょっと動いても良い?」  完全には追いやる事が出来ない欲求を宥め、柔らかい声色を出してなんとか優しい恋人を演じる。  なのに、オレの努力と些細なプライドなんて、遙の手にかかれば簡単に崩れた。 「昴。」 「何?」 「────好きだ。」  何もかもを許してくれるようにゆるりと首に回された暖かな腕と、ぎゅっと腰に抱きついた滑らかな足に、いっそ清々しい程の力で理性が飛ばされた。   吐息、水音、嬌声、肉と肉がぶつかる音。揺れる体と、絡めた指、口の端から溢れた唾液、人を狂わす月の光を湛えた吸い込まれそうな夜空。  耳を打つあらゆる音が興奮を呼び寄せ、目に写る全てが官能を引き出した。 「あぁ可愛い。好き、大好き。気持ち良いし、エロい、し、凄い、綺麗……ったく、よく、こんなんでっ……今、まで、なんともなかったなっ」  ナカで一番感じるのはもう少し浅いところだろうに、前も扱いている所為か、奥へ打ちつけても遙は堪らないといった風に腰を捩った。 「遙は? 気持ち良い?」  焦ったい動きで弱い所を煽りながら問う。さっきから意味のない言葉しか吐けなくなっちゃってるけど、なんか言ってくれるかな? 今なら、わりと何言われても可愛いって思っちゃいそうだけど。 「…………気持ち、いい……」 「え?」 「そこ、すき……っあ……きもちいい……。もっと、んっ……揺すって……ナカ、いっぱい、擦って」  思ってたのの何倍も素直な返事をさせれて、可愛いも好きもどっかに行った。代わりに、柔らかい遙の脚に自分の指が食い込む。跡付いちゃうじゃんって可哀想に思った側から、同じ言葉が滅茶苦茶甘くて魅力的に聞こえた。おまけに、こんなんじゃ足りないとまで言い出す。  これは、良くない感情だ。凄く凄く気持ちいいけど、同じくらい良くない感情だ。  欠片だけ転がってる理性からの警告を掻き集めて、どうにか力を緩めようとすると、乱暴に汗ばんだオレの手を遙の指先がそっと撫でた。 「……すばる。たくさん、好き、ってして」 「っだか、ら……! どこで、んなの……覚えてくんだよ……!」  これじゃ、どっちが主導権握ってんだかわからない。散々気持ち良くして強請らせたのはオレの方なのに、遙の言葉一つ行動一つで煽られて舞い上がって、言われた通りに腰も口も手も使ってる。  一度果てただけじゃ全然足りない。細い体を突き上げて、何度も名前を呼ばれて、境目もわかんなくなりそうなくらい溶けてぐずぐずになって。  やだだめもうむりって、濁音が全然言えてない舌っ足らずな声で泣きながらお願いされてやっと、遙を解放してあげる事が出来た。

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