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第19話

「颯太はおねだり上手だなぁ」  光彦は首をすくめ照れたように笑うと、Tシャツとデニムパンツをあっさりと脱ぎ捨てる。男とは思えないほどきめの細かい綺麗な白い肌は、見ているだけで鼓動を速める。  ボクサーパンツ1枚になってから意外にも少し躊躇しているのがもどかしく、颯太は両手を伸ばしてそれを一気に下ろし足から引き抜いた。うっすらとピンク色に染まった綺麗な光彦自身もすでに昂ぶりを示し、颯太の視線を感じてか先端から透明な液をじわりとにじませた。 「君の、してたら感じてきちゃったんだよ。あ……あんまり見ないで」  とてもそういうことを商売にしていたとは思えない初心な反応に、全身の血が沸騰しそうになったがなんとか堪える。今までのどの男よりも大切に扱って、気持ちよくしてあげたかった。誰よりも自分が一番愛していることを、触れるすべての部分から伝えたかった。  手を伸ばし抱き寄せて、唇にもう一度軽くキスしてからおもむろに床に横たえると、光彦は眉間を寄せ一瞬キュッと目を閉じた。畳のささくれがチクチクと背に刺さり、痛かったのだろう。 「あ……」  颯太はあわててその背の下に、自分の着ていた服を敷いてやる。 「ごめんね、これで痛くない?」  光彦は小さく頷き、聞こえないくらいの声で申し訳なさそうにつぶやく。 「君の服が汚れてしまうかもしれない」 「そんなのいい」  折れてしまいそうな細い相手に、重みがかからないようゆっくりと体を合わせる。生身の肌と肌が触れ合うだけで、簡単に熱が上がってくる。互いの昂ぶったものがたまにこすれるたびに、達してしまいそうになるのを何度もやり過ごす。  腕の中の愛しい体のすべての形を確認したくて指を滑らせると、光彦は微かに甘やかな声を上げて、手から逃げる魚みたいに泳ぐ。颯太には彼を悦ばせるほどの技巧はない。ただ指先に想いを込めて、気持を注ぎ込むようにゆっくりと触れて行くだけだ。 「みっちゃん……みっちゃん、好きだよ」 「あっ……あ、ん……そ、颯太は……」 「うん?」 「僕のことなんか、欲しくないのかと、思ってた……」  意外なことを言われ、思わず体を起こした。 「え? 何で?」 「だって、一度もそういう雰囲気にならなかったし……僕がああいう、商売してるから嫌なのかなって……」  初めて見る不安げな瞳が上げられる。いつも毅然と高見にいるように見えて、彼はその繊細な心の奥底で自らのことを常に卑下していたのだろう。愛しさに胸が詰まった。 「んなわけないでしょ? すげぇ我慢してたんだよ。番犬がご主人様襲うわけいかないからさ。ホントはあなたが他のヤツとしてるのドアの外で待ってる間、気ぃ狂いそうだったんだからね」 「そ、そうなの?」 「そうなの。でも俺、やっぱどうしてもお客さんにはなりたくなかったんだ。気持ちがなければ、セックスしたって虚しいだけだもんね。それだったら、犬の方がずっといいよ」    あなたの心に寄り添えるから、という一言は、ちょっと自分には気障過ぎる気がして言葉にはしなかったが、きっと伝わってくれただろう。  光彦は困ったように視線を揺らし、ためらいがちに口を開く。 「でも、ちょっとだけ……」 「うん。何?」 「襲ってくれるといいなって……僕的には期待してたとこあったりして……」  そう言った唇はわずかに震え、白磁の頬は花びらを散らしたみたいに染まっている。一気に頭に血が上った。 「あのねぇ、そういう大事なことはちゃんと言ってくれよな。我慢損じゃん、俺」  もう、我慢しない。しなくていい。  夢中で相手を抱き締め、首筋に顔を埋めた。光彦の甘くていい香りがする。鎖骨のあたりに口付け吸い上げると吐息が漏れ、手が背に回されるのを感じた。桜色の乳首は小さく控えめで指先で摘めないくらいだったが、何度か撫でてやるとすぐに固くなってきた。 「あ……ん、颯太……」  官能に濡れた声に煽られ、ほんのりと染まり勃ち上がった突起に唇を寄せ舌で転がしてやると、声はさらに高くなり細い体がしなる。すっかり昂ぶり蜜をこぼす先端を、おそらく彼自身意識せずに颯太の腹に押し付けてくる仕草も、可愛くてたまらない。  自分の愛撫で愛しい人が感じてくれていると思うだけで、どうしようもなく嬉しくなる。 「あぁ……なんか、信じられない感じ……」  深い快感に普段は涼しげな瞳を官能の色に染めて、光彦がうわ言みたいにつぶやく。 「何が?」 「こんなに気持ちいいの、初めて」 「そんなの当たり前でしょ。誰よりもあなたのこと好きなのは、俺なんだからね。きっとその気持ちが伝わるんだ」  欲望に昂ぶっても上品な花芯を、力を入れないようにゆるく扱いてやると、光彦は甘い声を上げて颯太の背にしがみついてきた。 「やべぇ、もう我慢できねぇや」  心の声が言葉になって出てしまった。日頃は楚々として聖らかな想い人の、想像よりもずっと色っぽい姿を見せつけられて、颯太は完全に余裕がなかった。  体の位置を下にずらし膝裏を抱えて開かせると、先走りでしとどに濡れ反り返る光彦自身から、まだ頑なに閉じられているピンクの窄まりまでがすっかり露わになる。  右手で中心をゆっくり扱き上げながら、唇を下の蕾に触れさせると光彦があぁ、とあえかな声を上げ身をよじった。逃げて行こうとする腰を捕まえ、それまでの経験値が信じられないほどきつく閉じられた奥の入口をゆっくりと潤し、舌でこじあける。 「颯太やめて……そんなとこ……だめ……」  全く拒んでいない、むしろ誘うみたいな掠れ声で言われても、煽られるばかりで逆効果だ。 「俺みっちゃんのこと絶対傷付けたくないから。ゆっくり、柔らかくしてあげる。……ほら、これでもう指、楽に入るよ」  細心の注意を込めて埋めていく中指を、頑なだった秘所は自ら受け入れ飲み込んでいく。なだめるように、それでも達しない程度に茎に刺激を加えてやりながら、おもむろに指を増やして行くと、光彦は焦れったそうに身をよじった。 「ああ……ンっ」  差し込まれた指がポイントを掠ったのか、体がビクリと跳ね、甘い声が漏れる。 「ここ、気持ちいいの?」  同じところをそっと擦ってやると光彦は瞳をきつく閉じ、答えない代わりに中心の先端から透明な蜜をしたたらせた。 「もう、いいから……。もう……きて」  切羽詰まった声がせがむ。  もう少しじっくり慣らしてやりたかったが、いい加減颯太も限界だった。解放されたくてはちきれんばかりになっている先端を、まだ心許ない入口にあてがい少しずつ体を進めて行く。  光彦の手が下に敷かれた颯太のシャツをギュッと握り、唇はきつく引き結ばれる。先ほどまでの濡れた官能の表情とは明らかに違っている。桁違いの質量の異物を受け入れるのは、やはりつらいのだろう。 「みっちゃん……」  手を伸ばし心配そうに頬を撫でると、うっすらと瞳が開き唇に淡い微笑が浮かんだ。 「大丈夫だよ……そのまま、して」 「うん……ごめんね」 「謝らないで、嬉しいんだから。君の想いを、僕の中に注いでほしい……」    伸ばされる手が頬に触れてくる。いい香りに体が素直に反応してたまらず腰を進めると、光彦は微かに眉を寄せ身をよじった。  少し強引に先端を納めてしまうと、もうたとえ痛いから抜いてと請われたとしても引けなくなった。しっとりと包み込み締め付けてくる感覚は颯太の空想を遥かに上回り、それこそ天にも昇る快感をもたらす。  根元まで埋めこみ、しばらくそのまま繋がりを感じていたかったが、到底そんな余裕はなかった。それでも相手の体を気遣い、おもむろに腰を使い始めると、光彦は苦痛とも快感ともつかない声で喘いだ。右手で中心を扱き上げ、左手の指先で胸の突起を摘み軽く捏ねてやると、甘い喘ぎは明らかに快感優位に変わってくる。  光彦が喘ぎ、たまらず体を動かすだけで内部が収縮し絡み付いて来る感触に、颯太は我を忘れそうになる。敷かれたシャツを握っていた手は今は背に回され、ギュッとすがりついてくるのが愛しい。 「あ……あ、ん……颯太、もう、いく……」 「うん、俺も、いきそう」  時折先端を指で回すように撫でつつ、扱き上げる速度を速めていくと、光彦の全身に痙攣が走り、脹らみを増したそこから解放の液が迸り出た。同時に中で締め付けられる刺激に堪えきれず、颯太も欲望を相手の奥に放っていた。  絶頂の余韻に開かれた唇に、貪るようにキスを落とす。 「颯太……颯太、好き……」  口付けの合間にうわ言のように繰り返される甘い告白。それを、これからは毎日聞いていられるのだ。  やっと手に入れた愛しい人を両腕にしっかり抱き締めながら、颯太は夢のような幸福感に浸っていた。

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