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勝者はどっち?

side 蒼牙 これは、いったいなんの罰なんだ。 肩口に感じる柔らかい唇に心臓がバクバクと煩い。 ことの発端はただのゲームだった。 『負けたら食器洗い』 そこから始まったじゃんけん。 だけど戯れから始まったゲームは訳のわからない盛り上がりを見せ、次第に様々な条件をつけるようになって。 『負けたほうが相手のモノマネ+食器洗い』 最終的にそんな形で落ち着いた勝負は....俺の勝ちだったー。 「くそっ...じゃあ、お前は絶対に動くなよ!」 実は負けず嫌いな悠さんは悔しそうにそう言うと、俺を指差して軽く睨んだ。 「動くなって...俺のモノマネ、いったい何するつもりですか?」 ニヤニヤと悠さんを見つめれば「いいから、絶対に動くな!」と念を押された。 「分かりました。動きませんから早く俺のモノマネ見せてください。」 「ほらほら。」と勝って余裕を見せていた俺は軽い気持ちで返事をした。 が、この時の俺はまだまだ悠さんを分かっていなかった。 「......っ、あの、悠さん...?」 「うるさい、動くな。」 背後に回った悠さんを振り返ろうと身動げば、肩口から照れたような声が返ってきた。 ....動くなって。 これ...『俺のモノマネ』なのか? いや、確かに否定はしないけど... よりによってこれをマネするかなぁ。 .....今の状況はというと。 背後に回ると悠さんは少し躊躇った後に俺の肩口に顔を寄せた。 フワリと良い香りが鼻を擽ったかと思うと、次には首筋に柔らかい唇が触れた。 擽ったくも温かいその感触に驚いたのは一瞬で、悠さんからこんなことを仕掛けてくるのが嬉しかった。 抱き締めたい衝動を抑えつけ、サラリと揺れる黒い髪を視界に捉える。 触れるだけだった唇はやがてうっすらと開かれ、軽く噛んではチュッとキスを落とす。 繰り返されるその動きにさっきからドキドキと心臓が早鐘をうっている。 「あの、これ....俺のモノマネって言いますか?」 「っ、そうだよ!」 恥ずかしいのだろう、少し乱暴なその口調にクスクスと笑いがこぼれた。 可愛いなぁ。 他にも俺のモノマネがあるだろうに、まさかこれを選んでくるなんて。 だけどなぁ... 可愛いけど勘弁してほしい。 今のこの態勢、俺からすれば拷問みたいなものだ。 『吸血行為』のマネをしてくる悠さんは可愛いのに...『動かない』と約束してしまった手前、何もすることができない。 柔らかい唇が触れ可愛らしい音がするのに、ただジッとしていろと言うのは...いったい何の罰ゲームなのか。 「っ、あの...俺、勝ったんですよね?」 「んあ?だから俺がお前のモノマネしてやってるんだろうが。」 ついつい恨みがましく言ってしまう俺に対して、悠さんはどこか楽しそうな声をしていて。 我慢だ、我慢しろ、俺.... 何となくここで欲に負けて動くのも悔しくて、俺は悠さんからの罰ゲーム(?)に耐えた。 そうして俺の心中を知ってか知らずか(いや、絶対分かっているに違いない)、悠さんは唇を移動させると.... ガブッ! 「いたっ!」 あろうことか、俺の首筋に噛みついた。 「悠さん!?」 思わず首筋を押さえ後ろを振り向けば、そこにはイタズラが成功したような満足気な表情。 「よし、終わり!」 そう言ってまるで犬を扱うかのように俺の頭をグシャグシャと撫でると、悠さんはスクッと立ち上がりまた俺を指差した。 「それじゃあ、食器洗ってくるからお前はゆっくりしてろ。いいな?」 「う....はい。」 ニッと口の端を上げるその表情は、俺の一番好きな笑いかたで。 「ん、いいこだ。」 笑いながら俺の頭をポンッと軽く叩くと、悠さんはキッチンへと歩いて行った。 「....負けた....」 ...きっとこういうのを『試合に勝って勝負で負けた』って言うんだ。 機嫌良くキッチンに向かう悠さんの後ろ姿を目で追いながら、俺は大きくタメ息を吐いた。

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