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同窓会
side悠
「ほらほら、篠崎。もっと飲みなって!」
「ははは...もう十分飲んだよ。」
「な~に言ってるんだよ!まだまだ飲めるだろ~。」
「....お前はもう止めとけ。」
高校の同窓会の連絡が来たのは初夏のことで、出席に丸を出してから月日はあっという間に過ぎた。
10年から会ってない同級生達。
この中で今でも連絡を取り合っていたのは僅か数人で、その友人達ともここ何年か会ってもいなかった。
大きなホテルで一次会が開かれ、二次会に突入する頃には皆昔の感覚を取り戻していて。
どこかよそよそしくお互いの近況や仕事の情報交換などを行っていたが、今ではすっかり出来上がっている。
『絶対に飲みすぎないで下さいよ。』
マンションを出る際に蒼牙から釘を刺された。
同窓会で飲むなと言われても無理だとは思うが、蒼牙が言わんとするところは分かっている。
『飲んだら色気が倍増する。』なんてふざけているとは思うが、蒼牙は至って真面目にそう伝えてくる。
それでも、バカらしいと思う一方で蒼牙が相手だと酔った自分が性的なことに積極的になってしまう自覚もあるだけに、あまり強く言い返せないのが事実だ。
「みんな~、次の注文とるぞー。」
幹事の声にビールだの酎ハイだのカクテルだの、各々が注文を繰り返す。
酔っ払いの注文に苦戦している幹事に心から同情しつつ、幹事を任されなくて良かったとも思ってしまう。
みんな昔話に花を咲かせ大いに盛り上がってはいるが、正直少し疲れてもきた。
時計を確認すればもう随分と時間がたっていて、そろそろ帰っても文句は言われないだろう。
「悪い、ちょっと電話してくる。」
一言そう告げると、席を立ち店の外に出た。
吐く息が白くなるのを見て、上着を置いてきたことを後悔しながらスマホを耳に当てる。
さむい...早く出てくれ。
肌寒さを感じるのは酔いが覚めつつあるのかもしれない。
そんなことを考えていると、思いが通じるかのように直ぐに電話は繋がった。
『はい、悠さん?』
優しい声が耳を擽る。
たったそれだけのことなのに、俺の心が温もるのが分かった。
「ん、仕事お疲れ様。そろそろ帰るから一応言っとく。」
『今何処ですか?』
恐らく迎えに来ようとしているのだろう蒼牙のセリフに、思わず笑ってしまう。
「駅前の『あさひ』って店。直ぐに帰れるから迎えは要らないよ。じゃあな、また後で。」
『え、ちょっと、』
まだ何か言おうとしている蒼牙の声を無視して、さっさと電話を切る。
このままダラダラと話していたら蒼牙のことだから迎えに来てしまう。
「さて、と。断ってくるか。」
大きく伸びをし、賑やかな店内に足を向ける。
みんな相当飲んでいるし、すんなりと帰してくれると良いが。
酔っ払いのしつこさはサラリーマン社会でよく知っているだけに、一抹の不安を抱えながら店へと戻っていったー。
「ねー、悠くんさ~結婚はまだしないの?」
向かいに座っていた根岸さんがゆっくりとした口調で聞いてくる。
彼女は女性の中でも比較的仲の良かった同級生で、あっさりとした性格が好ましかった。
酒に強いらしく、口調以外で酔っている様子が全く感じられないところが彼女らしい。
そんな根岸さんの左薬指には指輪が光っていて、高校の頃に比べると僅かにふっくらとした印象が微笑ましかった。
「結婚はしてないけど付き合ってる人ならいるよ。」
「え~!!彼女いるのかー!」
「どんな子、どんな子~!」
正直に答えれば、何故か周りの他の同級生のほうが話題に食いついてくる。
困った...
蒼牙に電話をしてからもう数十分。
完璧に捕まっている。
酔っ払いの相手は慣れているつもりだったが、同級生...しかも複数の女性相手はその勝手が少々違うことに戸惑っている。
「どんな子って...」
そういや以前にも会社の花見でこんな話題をしたような気がする。
他人の恋人の話なんか聞いて何が楽しいのか。
そんなことを思い苦笑いしていると、目の前に新しい酒のグラスが置かれた。
「まだ酔ってないでしょ~。だから飲んで飲んで!そんで、色々話しちゃいなって!」
「いや、本当にもう酒は止めとくよ。」
「なんでよー、もっと飲もうよ~。」
「ちょっと。悠くん困ってるじゃん。もう止めときなって。」
アルコール分の強い酒を目の前に困っていると、根岸さんが助け船を出してくれる。
「もー、根岸ちゃんは沢山話したんだろうけど、私たちはまだなんだから~!だから、はい!飲んで篠崎くん。」
それでも酔った他の女性の勢いは止まることなく、グラスをグイグイと押し付けられる。
あー....もう後の事は考えずに無視して帰ろうか...
思わず深くタメ息をついてしまう。
その場の空気を悪くしないようにと思っていたが、いい加減辟易としてきた。
「悪いけど、」
「俺が代わりに貰いますね。」
「「え?」」
断ろうとした自分の言葉に被せて、間違えようのない柔らかな声が聞こえる。
そうして背後から伸びてきた白く大きな手が、俺の前にあったグラスを掴んだ。
「きゃ....!」
周りにいた同級生達が小さく叫ぶのを聞きながら振り向けば、そこにはニッコリと微笑む蒼牙の姿があって。
そのままグラスに口を付けると、蒼牙は一気にそれをあおったー。
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