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看病6

side 蒼牙 ..........可愛い。 目が覚めて、もう十数分。 動くのが勿体なくてひたすら眺めている。 胸元にすり寄り服を掴んだまま熟睡している悠さん。 熱のせいとはいえ甘えてくるその姿が愛しくてたまらない。 苦しんでいる悠さんには申し訳ないが、昨日からの言動の数々にやられっぱなしだ。 今だって起こしたくないから我慢してるけど、撫でたいし抱き締めたいしキスしたい。 ...しないけど。 熱が少し下がっているのか、穏やかな寝息にホッとする。 内藤くんとナオが居てくれて、本当に良かった... 昨日の朝、いつもと同じように準備を済ませた悠さんを玄関で引き留めた。 「今日は帰りが遅くなるから...充電させて下さい。」 そう言ってギュッと抱き締め触れるだけのキスをおくれば「頑張れよ。」とクスクスと笑われた。 「よし、じゃあ行ってくる。」 「............行ってらっしゃい。」 仕事モードに切り替わっていた悠さんはすぐに腕から抜け出て、何も変わった素振りは見せずに出ていったけど。 「今の...」 俺には違和感が残り抱き締めていた手を見つめた。 触れた唇の乾いた感触。 笑った表情。 そして何より...抱き締めた悠さんの身体から香る血の匂いは、いつもより濃くて。 本人は気付いていないのか、それとも気付いていて無理をしたのか。 どちらかは分からない。 けど、今は低くても時間と共に熱が上がるんじゃないか....そう思えてならなかった。 職場に着いてからもその事が気になって仕方なくて。 「お先に失礼します。」 早出勤務で帰ろうとしていた内藤くんを捕まえ、事情を説明した。 「....疲れてるところ、ほんとゴメン。」 「良いよ。悠さんぶっ倒れてたら大変だもんな。」 頭を下げる俺にニカッと笑いかけ、快く引き受けてくれるのが有り難い。 こんなこと頼むなんて自分勝手だが頼れる人物が他にはいなくて。 「ありがとう...じゃあ、これ。」 内藤くんに鍵を渡しナオにも連絡をした。 とりあえず、これで少しは安心できる。 俺の杞憂であればそれで良い。 寧ろそうであることを願いながら、忙しくなっていく仕事を片付けていった。 だけどそんな願いは叶わなくて。 「...っ、やっぱり」 仕事が終わり直ぐ様チェックしたLINEの内容に、心配が現実になっていたことを知ったー。 ...そろそろ起きるかな。 時計を確認し寝室へと向かう。 今の悠さんなら目が覚めた時きっと俺の姿を探す。 起きたときに側に居てあげたい...例え一瞬でも寂しい想いをさせたくはない。 ...自惚れかもしれないけど。 それでも、あんな涙はもう流させたくないから。 寝室の扉を静かに開く。 よく眠っている姿に安堵しつつ、ゆっくりとベッドに腰掛けたー。

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