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看病(番外編)

(内藤くん目線) 蒼牙から預かった鍵でマンションの玄関を開ける。 「お邪魔しまーす...」 小さく挨拶しながら中に入れば、廊下もリビングも暗くて。 悠さん帰ってきていないのかと思ったが、玄関には革靴が脱がれていた。 「...寝室に居るのかな?」 ナオちゃんが申し訳なさそうにゆっくりと寝室の扉を開いた。 二人でソッと覗いてみれば、大きなベッドがこんもりと膨らんでいるのが分かった。 「「...............」」 お互い無言のまま顔を見合わせる。 どうやら蒼牙が心配していた通りの状況になっているらしい。 「ナオちゃん、悠さんの容態看ててくれる?俺、なんか食えるもん買ってくるわ。」 「うん、分かった。」 「あ、俺が出たらちゃんと鍵閉めてな。大丈夫だと思うけど何かあったらいけないから。」 「大丈夫だよ、隼人くんこそ気を付けてね。」 ああ、俺の天使はいつ見ても可愛い。 ニコッと笑いながら「行ってらっしゃい。」と続けてくれるのに笑い返すと、入ったばかりの玄関をまた出ていった。 それにしても、蒼牙の悠さんを想う気持ちには感服する。 『お願いがあるんだけど。』 神妙に話しかけて来たときには何事かと思ったが、聞いてみれば何てないことで。 本当なら自分が看病したいだろうに、俺たちを頼ってくれたことが嬉しいと思う。 「早く帰ろうっと。」 近くのスーパーの店内を回りながら呟く。 信用して任されたからにはちゃんと看てあげたい。 何が食べられるか分からないから、果物やうどんなど適当に見繕いレジに向かったー。 「お帰りなさい、隼人くん。」 「ッッ!た、ただいま!」 キッチンに荷物を置いていれば、背後から声を掛けられた。 『お帰りなさい』って、なんか新婚みたいじゃないか?これ... 一瞬で浮かれてしまった頭。 思わず大きな声で返事をすれば「もう、隼人くん。静かに!」と叱られてしまったけれど。 「悠さんどう?」 キッチンに立ちお粥とおかずを作るナオちゃん。 細い手が包丁を握っているのをドキドキしながら見つめてしまう。 「んー、だいぶ具合悪いみたい。さっき体温計取りに行ったら40.1もあった。」 「40.1.....人間ってそんなに熱が出るんだ。」 「たぶん朦朧としているんじゃないかな。私のこと蒼牙だと思ったみたいだったし。」 どこか困ったように笑うナオちゃんに「そっか。」と返すと、寝室の方からガタンッ!と大きな音がした。 「悠さん!?」 慌てて寝室の扉を開けば、ベッド脇にある棚に凭れかかる悠さんがいて。 「ちょ、大丈夫ですか?」 急いで体を支えれば「はっ...ゴメン...」と小さく謝る声が聞こえた。 「ほら、腕回して...歩けますか?」 「ん、ありがとう...トイレに行こうと思ったんだけどね...」 ハハッ....と笑う悠さんの体はバカほど熱くて、吐き出す息もすごく苦しそうだ。 「....少し、、肩貸して...」 フラフラと歩く体を支えながらトイレに向かう。 そうして何とかトイレを済ませ、もう一度ベッドまで戻るとナオちゃんが顔を覗かせた。 「...悠さん大丈夫?」 様子を伺っていたのだろう。 落ち着いたのを見計らって声を掛けると、お盆に乗ったスポーツドリンクとコップを持って寝室に入ってきた。 「...ごめんね、二人とも。迷惑かけて。」 「迷惑なんか。好きでやってるんだから大丈夫ですって。」 「そうだよ。...これ、気持ち悪いかもしれないけど。少しでも水分。」 コップにスポーツドリンクを注ぎ、ナオちゃんが差し出す。 受け取りながら「...ありがとう。」とお礼を言うと、悠さんはゆっくりとそれに口を付けた。 「お粥作ったけど...ちょっとだけでも食べられます?お薬も飲まないといけないし。」 「わざわざ作ってくれたの?...ん、少し食べようかな。」 「良かった...少し待っててくださいね。」 ニコリと笑うとナオちゃんはキッチンへと戻る。 その姿を見送り悠さんは大きく息を吐いて頭を押さえた。 「ほんとに辛そうっすね。無理せず横になってたほうが良いんじゃ。」 「大丈夫...心配してくれてありがとう。」 そう言ってチラッと視線を寄越す姿にドキッとさせられた。 ......なんだろう。 けして、けして変な意味ではなく。 変な意味ではないけれど、、、、 熱で潤んだ瞳 力なく掠れた声 熱い吐息 乱れた髪 元々顔立ちは整っているし、どこか雰囲気のある人だけど。 今はそこに熱がプラスされて...なんと言うか...かなり色っぽ、い.... .......いやいやいやいや! 悠さん男だし! 病人だし! 神様に誓って、俺は悠さんをそんな変な意味で見たことはないし! 「蒼牙は...?」 悠さんの声にハッとする。 まるで迷子の子供のように、どこか寂しそうな表情。 弱々しく掠れた声で呟かれた名前、、、 .....可愛い... .............じゃなくて!か、可哀想! そう、可哀想!! 「そ、蒼牙はもう少し遅くなるかと!」 「...そうか...だよな。」 「.....!!」 顔をクシャッと歪め泣きそうな顔で笑うと、伏し目になりため息を吐く。 その表情と様子に俺はその場で項垂れた。 知ってたよ...うん、知ってた。 悠さんも蒼牙に負けず劣らずラブラブに思っているのは。 だけど...こんな風に目に見えて感情を表情に出し、態度で表す姿は見たことがなくて。 ....... ..........ごめんなさい。 認めます。 蒼牙がいつも言ってること、こんな形で認めたくはなかったけど。 この人、熱出すと『エロ可愛い』です......(泣) こんなこと蒼牙に知られたら、どんな勢いでノロケられるか。 『だからいつも言ってるじゃない。悠さんはエロ可愛いんだって。』 うわぁ...ドヤ顔で自慢する姿が目に浮かぶ。 「内藤くん...どうかした?」 「........気にしないで下さい...」 ベッド脇で頭を抱える俺を不思議そうに呼ぶ悠さん。 自分が辛いくせに気づかってくれるのが申し訳ないが。 だけど... ダメだ、見るな俺。 今顔見たらまた『可愛い』とか思ってしまう...! 俺は俺の中の『理想の大人のカッコいい男』を壊したくなんかないんだよ...! そうしてナオちゃんがお粥を運んでくるまでの僅かな時間、俺は顔を上げることができなかった.....(涙)

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