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バレンタイン2

side 悠 頭を撫でる大きな手の感触に微睡んでいた意識が浮上する。 「...さん、起きて。悠さん。」 「...ん、蒼牙...帰ったのか。」 「はい。こんなところで寝たら風邪引きますよ。」 蒼牙が帰ってくるのを待っている間にソファで寝落ちていたらしい。 クスクスと笑う優しい声に甘えたくなる。 「おかえり...蒼牙」 腕を伸ばして抱き寄せれば、覆い被さるようにしてギュッと抱き締め返された。 「帰りました。」 嬉しそうな声が耳元に囁かれ、チュッ...と当然のように落ちてくる唇を受け止める 首筋に顔を埋めて大きく息を吸えば、胸一杯に蒼牙の香りが広がる。 優しくて安心できる温もりと身体を抱き締める腕の力強さ。 気持ちいい...このまま寝るのも悪くないな... まだ若干寝ぼけた頭でそう考えかけてハッとした。 違う、寝たらダメだ。 何のために蒼牙が帰ってくるのを待っていたのか。 「....あぶな、寝るところだった。」 「悠さん?」 慌てて身体を起こせば蒼牙が名前を呼ぶ。 時計を確認してみればまだ日付は変わっていない。 離れた蒼牙の温もりを少し物足りなく感じつつソファから立ち上がると、置いてあった鞄から小さな箱を取り出した。 「.....どうぞ」 蒼牙の前に座りラッピングされたその箱を差し出す。 今日はバレンタインだから。 初めてチョコを渡したあの日、本当に嬉しそうに...そして幸せそうに笑った蒼牙の顔が忘れられない。 あんなに喜ぶのならまた渡してやろう、そう思った。 .....思ったのは良いが、バレンタインに貰うことはあっても渡す経験なんか積んでるはずもなく。 なんと言って渡せば良いのか分からず、ぶっきらぼうな物言いになってしまう。 「ありがとうございます...」 箱を受け取りそう言うと、蒼牙は口を押さえて黙り込んでしまった。 その反応が予想していたものと違っていて、少し首を傾げた。 もっと喜ぶかと思ったんだが... 「.......蒼牙?」 「っ!」 どうしたのかと顔を覗き込めば、驚くほど顔を赤くした蒼牙と目が合った。 「え、お前...照れてるのか?」 「っ、だ、だって...!」 「だって、何だよ。」 耳まで赤くして蒼牙が慌てたように口を開く。 あまりに可愛いその様子に、思わずニヤけてしまう口を引き締めながら先を促せば「嬉しいんだから仕方ないでしょう!」とそっぽを向いてしまった。 何こいつ。 『ありがとうございます、悠さん。』って抱き締めて来るだろうと予想していたのに。 こんなの反則だろ。 想像以上の可愛い反応と喜び方にこっちまで嬉しくなる。 「喜んでもらえて良かった。」 「はい...!本当にありがとうございます、悠さん。」 手を伸ばし形の良い頭を撫でる。 嬉しそうにチョコの箱を握り、まだ赤い顔をフニャッと歪めて笑うのが愛しくてたまらない。 時計の針が日付を跨ぐ。 良かった。 ちゃんと14日に渡せて。 丁寧にラッピングをほどき箱を開くと、「いただきます。」とチョコを頬張る。 モグモグと幸せそうに食べるその姿を見つめていれば、なんだか我慢できなくなって。 「...なぁ、蒼牙」 「何ですか?」 名前を呼ばれ振り向いたところに顔を寄せ、素早く唇を奪った。 「っ、!」 チュッ.... 触れるだけの軽いキス。 小さく音を響かせ離れれば、固まった蒼牙が俺を見つめていて。 「ん、甘いな。」 至近距離でニッと笑って見せればグイッと抱き寄せられた。 「美味しいですよ。『悠さんも食べて下さい。』」 あの日と同じ言葉。 箱からチョコを一粒取り口に入れると、ゆっくりと重なってくる唇。 「ん...」 送り込まれたチョコを噛み砕き飲み込めば、すぐさま覆われる。 甘くて優しい...だけど確かな熱を孕んだ口付け。 「大好きです...」 キスの合間に囁かれる言葉と頬に添えられた大きな手、見つめてくる蒼い瞳。 全てが愛しくて、そして...失いたくないもので。 こうやっていつまでも一緒に居られれば良い... 深さを増していくキスに酔いしれながら、そんなことを願った。

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