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不快
「...なるほど。またタイミングよく遭遇したもんだな。」
「........」
木内が苦笑しつつ言うのに視線で応える。
一通りの事を話し終えグラスを傾ければ、若干薄まったウイスキーが喉を潤した。
やけに喉が渇いたように感じるのは、楽しい話題ではなかったからだろうか。
蒼牙が吸血鬼であることは伏せて話したため、いつもと違う様子だったことがどこまで伝わったかは分からない。
それでも真剣に話を聞いてくれている木内の存在が有り難かった。
あの時。
カフェで二人を見かけてから、暫く動くことが出来なかった。
蒼牙がバカほどモテることは知っている。
そのくせ女性のあしらいが下手くそで、『ハッキリと断れ』と言ったことも何度もあった。
だけど、今日見かけたのは今までとは明らかに状況が違っていて。
蒼牙の表情はよく見えなかったが、嬉しそうに腕を絡めていた女性に心がざわついた。
...昨夜様子がおかしかったのは彼女が関係しているのだろうか。
そう考える一方で、
二人でどこに向かっていたのか。
どういう関係なのか。
今日は仕事のはずでは無いのか。
そんな思いが次々と浮かび、自分が妬いていることに嫌でも気づかされた。
「蒼牙が浮気をしているとは思っていないが、」
「うん」
言葉を切った俺に視線を寄越し木内が相槌を打つ。
「...でもまぁ、女性と二人で歩いているのを見せられたら気分は良くない。」
小さく本音を漏らしながらもう一口ウイスキーを飲む。
その言葉に木内が小さく笑うのが分かった。
浮気はしない。
蒼牙は俺を裏切るような真似だけは絶対にしない。
自惚れかもしれないが、これだけは自信をもって言える。
けど、それとこれとは別問題で。
頭で理解していても心は素直に不快感を表していた。
「捕まえて殴ってやれば良かったのに。」
「ほんとだな。」
くすくすと笑いながら答えれば、木内がウイスキーのボトルを差し出してきた。
「とりあえず今日は飲めよ。付き合ってやるから。飲んで気分転換して、それから秋山と向き合え。」
「ん...」
空になったグラスに氷を足し木内からの酒を受け取る。
『飲みすぎないようにしてくださいね。』
蒼牙の言葉を一瞬思い出したが....知るか。
誰のせいだ、誰の。
「...木内」
「んー?」
「ありがとう。」
木内がいてくれて良かった。
弁護するでも助言するでもなく。
ただ黙って聞いてくれた。
モヤモヤとしたものを吐き出したら、少しスッキリした気がする。
そう気持ちを込めて伝えれば「気にするな、面白がってるだけだから。」と笑われたー。
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