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理由

side 悠 マンションのリビング。 ソファに寄りかかりながら蒼牙をジッと見つめた。 「えっと、、怒ってます...?」 「......怒ってはない。けど、気分は良くない。」 「う...ですよね。」 でかい体を小さくして座る蒼牙に手を伸ばす。 ゆっくりと少し薄めの唇を指先でなぞれば、ピクッと体を震わせた。 「俺の納得のいく説明じゃないと今後キスは禁止。」 ハッキリとそう伝えれば、大きく目を開かせる。 若干泣きそうな表情が面白い...が、言葉を撤回するつもりはない。 「...昨日のことですよね、」 「それじゃない。」 「え?」 昨夜のことについて触れようとした言葉を遮る。 「俺が気分を悪くしているのは昨夜のお前の態度なんかじゃない。」 「違うんですか?」 戸惑ったように俺を見つめてくる蒼牙に「違う。」と首を振った。 「.....今日、一緒に居たのは誰だ?」 「え?」 「昼に。一緒に出掛けていただろ。」 妬いている自分が情けなくてまっすぐに見つめてくる瞳から視線を反らしながら呟けば、「ああ...あれ。」と困ったような声が聞こえた。 「見かけたんですね。...あの人は美波さんっていって。今度うちの店が姉妹店をオープンするんですけど、そこの従業員です。」 「.....美波」 隣を歩いていた女性の名前を無意識に繰り返していた。 名前を呼ぶくらいなのだからよほど親しいのだろうか。 「はい。電話をもらった時も、美波さんと話をしていて出られませんでした。ごめんなさい。」 言われた言葉に心臓がドクッと音をたてる。 仕事が終わってからも一緒に居たのか。 電話に出られなかったのは仕方ないが、それが彼女と一緒に居たことが原因だったという事実が俺の中のモヤモヤをいっそう大きくした。 自分が聞き出しておいて、スッキリするどころか気持ち悪さが増している。 情けない。 こんな女々しい自分、殴ってやりたくなる。 「ほんと、俺らしくないな...」 「.....悠さん?」 小さく呟けば、聞き取れなかったのか蒼牙が顔を覗き込んできた。 その蒼い瞳をまっすぐに見つめ返し、俺は言葉を続けた。 気持ち悪いのなら聞けば良い。 うやむやに終わらせるのは嫌だ。 「それで...『仕事仲間』、それだけの関係か?」 「っ、違います...」 言葉を一瞬詰まらせ、言いにくそうなその様子にフッと笑って見せる。 「ちゃんと聞くから。彼女とどんな関係なのか、説明してくれ。」 「..................」 「.....ダメか?」 黙ってしまった蒼牙を見つめる。 その沈黙がどんな意味をもつのかが分からない。 「......蒼牙、....!!」 促すように名前を呼んだのと、蒼牙が俺を抱き寄せるのは同時で。 力強い腕と、急に近くなった蒼牙の匂いに心臓が跳ねる。 「なに、蒼牙....まだ話の途中!!」 それでもギュウギュウと抱き締めてくる腕に抗いながら声を大きくすれば、蒼牙のクスクスと笑う声が耳を擽った。 「.......やっと分かった。悠さん、妬いてくれてるんだ。」 「なっ、それは、」 言われた言葉が図星すぎて咄嗟に反論できないでいると、「可愛い...悠さん。」と嬉しそうな声が聞こえた。 「ふざけんな!ちゃんと説明、」 「男ですよ。」 「.......は?」 抱き締めたまま離そうとしない蒼牙に声を荒くすると、ハッキリと告げられた。 告げられはしたが、言葉の意味に頭がついていかない。 「『美波』って言うのは名字で、あの人は男だよ。」 「名字...おと、こ...?」 「そう。だから、悠さんが思っているような関係なんかじゃないし、妬くようなことは何もありません。....むしろ苦手です。」 「...............」 そう言ってゆっくりと体を離すと蒼牙は額を合わせてきた。 嬉しそうに歪められた瞳に見つめられる。 顔が熱い。 この火照りはアルコールのせいなんかじゃない。 「あの、悠さん。」 「っ、なんだ...」 優しい声。 恥ずかしい。 穴があったら入りたい...そんな思いに駆られながら声を振り絞る。 「まだ全部は話せてないですけど...キスしたいです。」 「......ンッ、」 言葉と共に重なってきた唇。 温かく柔らかいその口付けに、ゆっくりと瞳を閉じたー。

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