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苛立ち
「秋山くん、だっけ?キミ、俺と同じだね。」
綺麗な微笑み。
けど、どこか冷たい...そんな印象を受けた。
「.....みたいですね。」
声が固くなってしまう。
だいたい互いが吸血鬼であることを確認する必要もなければ、誰に聞かれるかも分からない状況下で話すことでもない。
「そんなことより、仕事に戻りませんか。」
曖昧に笑って見せると「ふーん...」とジロジロと見つめられた。
「ちょっとさ、話したいから。仕事終わったらここのホテルのロビーに来てくれる?」
「はい?」
急な呼び出し。
思わず眉を寄せるのを気にするでもなく、自分の腕時計を確認すると言葉を続けた。
「そうだな、7時に。俺も行かなきゃだから、またね。」
「ちょっと待ってください。俺は話すことなんかありません。」
勝手に言い残して部屋から出ていこうとする美波さんの腕を掴み引き留めた。
正直、俺の勘がこの人には関わるなと告げている。
そんな俺の言葉を面白がるように笑うと、美波さんの白い手が髪に伸びてきた。
「秋山くん綺麗な髪だね、すごく好み。顔も綺麗だし。」
「...触るな!」
言いながら髪を撫でられ、背筋がザワッと粟立った。
一体なんだ...この人。
何を考えている?
「....さっきの友達、内藤くんだったかな。けっこう美味しそうな匂いしてたね。」
「な、」
「来なくても良いよ。そうしたら彼と『遊ぶ』だけだから。お好きにどうぞ?」
「...........」
ニッコリと笑い「じゃあ、また後で。」と俺の手をゆっくりと外すと、美波さんは背中を向けた。
コツコツと靴音を響かせながら部屋を出ていくのを見つめる。
気持ち悪い。
あの人は、俺の一番苦手なタイプだ。
かつての清司さんを思い出す。
『人間なんてただの餌だよ。』と蔑むように笑っていた、あの頃の表情と同じ。
でもたぶん、清司さんより美波さんのが質が悪い。
清司さんは止まってくれた。
けどあの人はきっと止まらない。
俺が行かなければ本当に内藤くんを『餌』として狙うだろう。
「くそっ...!」
腹の奥がムカムカとする。
あの人が何を目的としているのか分からないだけに、どうしようもなく苛立った。
コンコン、
スタッフルームの扉がノックされる。
返事をすれば、ゆっくりと遠慮がちに内藤くんが顔を覗かせた。
「蒼牙、話終わったか?」
「あ...うん、ごめん。」
「.......美波さんとなんかあったのか?変な顔してるけど...」
「そう?何でもないよ。」
部屋を出ようとすれば扉横に立っていた内藤くんに声を掛けられ、それに笑って答える。
ノックを受けた時点で表情は切り替えたつもりだったけど、どうやら上手くいかなかったらしい。
「ほんとに大丈夫か?」
ビシッ!
どこか心配そうな顔をして聞いてくる内藤くんの頭にチョップを入れる。
途端に「いってーな!」と喚くのに「うるさいよ。」とケラケラと笑いが込み上げた。
「ほんとに大丈夫だから、心配してくれてありがと。」
「...そっか。」
そうして安心させるように微笑めば、内藤くんもニッと笑った。
そうだ。
イライラしても仕方ない。
もしあの人が俺の大切な人達を傷つけようとするのなら、俺が守れば良いだけの話なのだから。
頭を一つ振り、そう自分に言い聞かせたー。
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